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スペアタイヤ

  • 2019-11-03 (Sun) 13:54
  • 総合

 ラグビーのワールドカップもつつがなく終了した。決勝戦のイングランド対南アフリカ。どちらにも勝って欲しかったが、日本が南アに敗れたことを思えば、やはり南アがイングランドを降せば、それだけ日本に対する評価は相対的に上がることになるだけに、幾分多めに緑のジャージーを応援していた。
 一夜明け、読売新聞のスポーツ欄で改めて決勝戦の結果を読んでいると、南アのエラスムス監督の談話が目に入った。談話の末尾は次のような文章だった。「国ではいろいろなことがあるが、ラグビーを見て幸福をもたらせるようにやってきた」。おそらく多くの読者は「国ではいろいろなことがあるが」というくだりは何気なく読み飛ばしていただろうと思う。
 時々読んでいる南アの代表的新聞のホームページに跳んだ。ワールドカップ二回目の優勝を賑々しく報じているのではないかと思ったが、一行の記述もなかった。時差の問題もあるし、この新聞は速報を売りにしているメディアではないからかもしれないが、それにしてもつれない。うがった見方をすれば、南アの国内情勢がスポーツに一喜一憂するほど余裕がないことと無縁ではないだろう。
 南アではこのところ、南アの人々がナイジェリアやジンバブエ、モザンビークといったアフリカ諸国から来た同胞アフリカ人を「俺たちの仕事を奪っている」として襲撃する血なまぐさい暴力事件が相次いでいる。外国からの移民に対する憎悪の念が募っているのはトランプ大統領にあおられた一部の米国民だけではない。命からがら母国に戻った、あるいは今も恐怖の中で暮らしている南ア国内の出稼ぎ外国人には、南アの勝利を「アフリカの誇り」として共に歓喜する気持ちには到底なれないことだろう。
 エラスムス監督がおそらく優勝後の共同記者会見の場で、偉業達成の興奮に流されることなくきちんとそのことに触れたことに監督の人間性を見る思いがしたし、その一言をきちんと付記した読売運動部記者に敬意を表したい。
 ラグビーのワールドカップも終了したし、大リーグのワールドシリーズもプロ野球の日本シリーズもしかり。私のような者には退屈な日常生活が戻ってくる。まあ、テレビから解放されることになるのだから、これはこれで喜ばしいことではあるが・・。
                  ◇
 読売新聞の日曜日の英語コラム「特派員・とらべる英会話」に「別腹」という表現の日本語訳が紹介されていた。ランチをお腹一杯食べた米国人スタッフが職場に戻り、さらにメロンパンを食べようとしているのを見て驚くと、“My dessert stomach is empty!” と切り返されたとか。
 このコラムを読んで、自分が英字新聞の編集長だった頃に手がけた日常生活の英語表現を紹介する『コレって英語で?』でも「別腹」を扱ったような記憶があり、本棚からこの本を取り出し、繰ってみた。紹介していた。「デザートは別腹」は英語では “I have another stomach for desserts.” や “I have a separate stomach for sweet things.” と記してある。
 『コレって英語で?』では「お腹の周りのぜい肉」のことを a spare tire と説明してもいる。私は車もないのに、立派なスペアタイヤをいつも携帯して歩いている。嗚呼!

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