- 2018-12-04 (Tue) 09:44
- 総合
先夜の懇親会で韓国語を久しぶりに口にしたこともあってか、韓国語に対する思いが少し蘇ってきたかのようだ。それでこのところ、ケーブルテレビで韓国語のドラマをまたよく見るようになった。以前にも書いたが、韓国のドラマは観ていてあまりにもベタな内容に辟易し、ずっと遠ざかっていた。ケーブルテレビで観ることができるドラマは多くが100回前後、ときには200回近いシリーズものが多い。はまれば毎回1時間近いドラマにかなりの長期間付き合うことになるので、これも遠ざかっていた理由の一つ。
最近たまたまチャンネルを合わせたドラマは10余回の連続ドラマ。これなら付き合える。何気なく見ていて、もちろん、字幕があるから理解できたのだが、それでも、字幕がなくともだいたい意味合いを聞き取れるやり取りが少なからずあった。私も少しは韓国語の力をつけているように感じた。
その中で次のやり取りが記憶に残った。男性の上司が部下の女性に「당신」(タンシン)と呼びかける。人称代名詞で漢字なら當身か。職場の上司が部下に呼びかけるときには「タンシン」でOKなのかと。以前に観たドラマでは年下の男性が年長の男性に「タンシン」と呼んで喧嘩になるシーンがあった。私の韓国語辞書には「당신」は「(相手を軽んじるような言い方で)あんた」「(夫婦間で)あなた」と載っている。日本人が韓国を訪れ、初めて出会う人々に対し、ゆめゆめ「タンシン」と呼びかけてはならないことが分かる。
外国語を学ぶときには、初対面の相手をどう呼ぶかということは結構頭を悩ます。英語がその点楽なのは、youの一語で済ますことができることだ。相手が大会社の社長であれ、商店のおばちゃんであれ、youで何の問題もない。中国語も似たようなものかと思う。普通は「你」(ニィ)でOKだし、敬意を払いたければ「您」(ニン)と言えばいい。それだけのことだ。韓国語ではそうはいかない。辞書には「너(ノ)」という語も載っているが、これは実際には親しい間柄でないと使わない方が無難のようだ。それで通常、第三者は肩書きをつけて呼ぶか、フルネームに「씨(シ)」をつける。あるいは相手が男性であれば「선생님(先生様ソンセンニム)」と呼んでいれば気を悪くする人はいないだろうとどこかで読んだ記憶がある。中国語でも男性に対しては「~先生(シェンション)」と呼べば、それは「~さん」を意味するとNHKのテキストにあった。
いずれにせよ、日本語や韓国語では第三者に礼を失することのない人称代名詞、そして適切な敬称をつけるということは常に悩ましい問題だ。だから日本語では煩わしい人称代名詞や敬称は敬遠して、用件だけを話すことの方が圧倒的に多い。初対面の人に臆することなく使える的確な二人称は日本語には存在しないのではないか。「あなた」では決してない。ずっと以前に読んだ専門書に次の指摘があった。「人称代名詞の種類では、中国語より日本語のほうが圧倒的に多いのであるが、使う頻度は中国語のほうがずっと高い。日本語の人称代名詞は、時として翻訳調である印象を与えたり、また、目上の人間を直接指すのは失礼であると考えられたりなどするので、日本語の通常の使用では、あまり人称代名詞を使わない。人称代名詞を使わずに、親族名や身分を表す語を使うか、何も使わず省略する」<『中国語と日本語』(日本語ライブラリー)(朝倉書店 編著・沖森卓也、蘇紅 2014年)>
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