- 2016-05-18 (Wed) 10:41
- 総合
前回の項で記した朝日新聞の記事。私が読んだのはネット版の記事だった。新聞記者時代の習性で実際の紙面を手に取ってじっくり読んでみたい思いに駆られた。コンビニで朝刊を買い求めて、記事を探す。残念ながら、お目当ての記事は実際の紙面にはなかった。その代わりに「ひと」欄に関連の記事が掲載されていた。
「ひと」欄の記事も悪くないのだが、やはり、ネット版の記事とは面白さが比較にならない。最近では出色の会見記事だった。朝日の記者の筆力が素晴らしいと述べているのではない。「素材」がいいのだ。定期購読している読売新聞でも3社面にこの会見記事は出ていてそれなりに「感じ」は出ているのだが、朝日のネット記事を読んだ後では物足りない。
前置きが長くなったが、くだんの記事は文学の話題で、三島由紀夫賞に蓮實重彦氏(80)の作品「伯爵夫人」が決まったというもの。新鋭作家に贈られる三島賞を実績のある傘寿の人が受賞するという異例さ。私は蓮實氏のことは全然知らなかったが、2000年前後に東大総長を務めたことのある仏文学者で、映画や文芸の批評の第一人者とか。「伯爵夫人」は日米開戦前夜の東京を舞台に、「帝大受験を控えた青年と元高級娼婦との交流がエロチックな描写で埋め尽くされた物語」(朝日新聞)だという。
朝日のネット版では受賞会見での記者団とのやり取りが詳しく報じられていた。ネット版ならではの扱いだろう。これを読む限り、凄まじい会見だったようだ。受賞の会見とは到底思えない、殺伐とした雰囲気さえ伝わってくる。本人も望んでいなかった受賞への戸惑い、怒りが行間から、いや、蓮實氏が放つ生の言葉からにじみ出ていた。このようなやり取りが交わされる会見は滅多にお目にかかれるものではないかと思う。
朝日のネット版から少しその発言を拾わさせて頂くと・・・。受賞の喜びを問われて————「まったく喜んではおりません。はた迷惑なことだと思っています。80歳の人間にこのような賞を与えるという事態が起こってしまったことは、日本の文化にとって非常に嘆かわしいことだと思っております」。受賞作品と自身の青春時代の関連を問われて————「それは全くありません。馬鹿な質問はやめていただけますか」。受賞作を執筆することになったきっかけを問われて————「全くありません。(作品が)向こうからやってきたということです」。今の時代が秘めている危うさとか隠された意図とかがあるのかと問われて————「申し訳ありません。おっしゃることの意図がわかりません」。作品を書いた理由を問われて————「全くありません。向こうからやってきたものを受け止めて、好きな風に好きなことを書いたというだけなんです。それでいけませんか。何をお聞きになりたかったんでしょうか」
ひょっとしたら、民放のワイドショーのような番組ではこの会見が報じられたのかもしれない。民放テレビにとっては格好のネタになったことだろう。民放テレビは野球やサッカーなどのスポーツ中継以外は見ることは皆無に近い。大リーグ中継や韓国語ドラマに付き合っている身にはこれ以上、テレビに向き合う時間はない。このところの地震頻発でただでさえNHKを見る時間が増え、最近では朝の連続テレビ小説「とと姉ちゃん」まで何となく見させられている。ヒロインの高畑充希が個性的でいい味を出している。韓国の女優さんとは趣がだいぶ異なるが・・・。
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