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悪魔に魅入られたくなくて

  • 2015-11-11 (Wed) 15:23
  • 総合

20151111-1447222944.jpg 私は今の生活に落ち着いて以来、よく本を手にするようになった。「小人閑居して不善をなす」といい、私のような凡夫がその「不善」を未然に防ぐには読書が恰好の「気晴らし」(pastime)でもある。上記のことわざは私の電子辞書にはThe devil finds work for idle hands.と載っている。なるほど、暇を持て余して(idle)いる輩(hand)は悪魔(devil)に魅入られるらしい。
 今読んでいるのはジョナサン・スウィフトの『ガリバー旅行記』(Gulliver’s Travels)。2012年のイギリス名作ゆかりの地をさるく旅でも、この作品のことはちらっと脳裏をかすめた。だが、取り上げることはよした。理由は簡単。読んだことがなかったからだ。これほど有名な作品を読んだことがないのは実に気恥ずかしいことだが、私にはそういう本ばかりだ。自慢にもならないが。それで遅ればせながら今の読書三昧がある。もっとも、『ガリバー旅行記』はスルーしたが、その代わり、ダニエル・デフォーの『ロビンソン・クルーソー』(Robinson Crusoe)は何とか読み終えて、これを取り上げた。スウィフトとデフォーは17世紀から18世紀の同時代を生きた作家だ。
 風刺文学の傑作とも評されるこの物語を手にしたのは、読売新聞の先日の日曜版の「名言巡礼」というコラムで紹介されていたからだ。何でもガリバーが日本を訪れており、長崎の地名などが言及されていると書かれていた。そうなの? 日本が出ているとまでは知らなかった。それで集英社版世界文学全集の本を図書館から借り受けた。こちらの表記は『ガリヴァ旅行記』(中野好夫訳)。第三篇第十一章に以下の記述があった。日本の東南部にあるザモスキ(Xamoschi)と首府のエド(Yedo)を経由して「一七〇九年六月九日、我輩は長い長い旅と、さまざまの難渋の揚句、やっとナンガサク(Nangasac)に着いた」。エドとナンガサクはともかく、ザモスキははてどこだろう。
 鎖国の江戸幕府がオランダとは通商関係にあったことや、またキリシタン取り締まりのため「踏絵」が行われていたことなどが書かれてはいるが、それ以上の詳しい記述はない。少しがっかりしたが、さすがに日本に関する情報は当時は希少だったのだろう。
 物語自体はあのよく知られた小人国リリパットや巨人国ブロブディンナグでの記述が読ませたが、作家の人類文明に対する激しい失望の念がそこかしこに満ちていた。第四篇に出てくる理性の塊の生物である馬(フウイヌム)とヤフーと呼ばれる下劣極まりない獣との対比が凄まじい。ヤフーは我々人間に限りなく近い生物として描かれている。いや、不潔で悪臭を放ち、腐肉をあさり、喧嘩・暴力に明け暮れるこの獣は作家の目には人間そのものに映っていたのだろう。もしスウィフトが現代に蘇ったら、悲惨なテロが吹き荒れる現代の世界をどう見るのだろうかとも考えた。巨人国の王が旅人のガリバーに次のように語りかける次の言葉が印象に残っている。18世紀初頭の人類全体に対する侮蔑の言葉だ。
 だがとにかく君の話と、それから自分がいろいろと質して引き出した君の答弁とから判断したところでは、君の同胞の大多数というものは、自然の摂理でこの地球上をのたくり廻っている最も恐るべき、また最も忌わしい害虫の一種であると結論せざるをえないようだ、と言われるのだ。      
              (『ガリヴァ旅行記』より) (原文は続で)

But by what I have gathered from your own relation, and the answers I have with much pains wrung and extorted from you, I cannot but conclude the bulk of your natives to be the most pernicious race of little odious vermin that nature ever suffered to crawl upon the surface of the earth.” 
 この文章には「ひどく有害な」(pernicious)とか「非常に不愉快な」(odious)、「害虫、害獣」(vermin)といった語が並ぶ。the most pernicious race of little odious vermin とは、いやはや凄い表現だ。約300年を経過して、我々は少しはましな存在になったのであろうか?

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