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フォックスキャッチャー

  • 2015-02-28 (Sat) 11:19
  • 総合

 土曜日の朝。本来なら、前回記したように、鹿児島・南大隅町に向かうべく、長旅の途上で読む本をバッグに詰め、そろそろ出ようかと思っているところだろう。ところが前回のブログをアップした直後に町役場に勤務する旧知のTさんから携帯に残念な電話が入った。Tさんの説明によると、この日曜は役場の外での仕事があり、彼自身が忙しい。稲生岳神社の地元の世話役の人も忙しく、伝統の行事はうちわで済ませるような案配だとか。心はすっかり南大隅町に飛んでいたのでがっかりだったが、致し方ない。Tさんとはいずれ機会を見て、稲生岳に参詣登山することを申し合わせて電話を切った。
 そんなこんなで時間がまたできた。読みたい、読まなくてはならない本がたまっているので、持て余すことはない。そうだ。映画も久しく観ていない。何か、面白そうなものでもかかっていないかな? いつも足を運ぶ映画館は天神にあるKBCシネマ。こじんまりした映画館で、私はここが好きだ。ネットで調べると、アカデミー賞で5部門にノミネートされた「フォックスキャッチャー」という作品が上演中とあった。「カポーティ」「マネーボール」で知られるベネット・ミラー監督の最新作だとか。私は上記の二作とも映画館で観ている。「カポーティ」はなかなかの力作だった。
 この映画は実話に基づく作品だという。1988年のソウル五輪の直前。前回ロサンゼルス五輪のレスリングで金メダルを取った若者、マーク・シュルツにデュポン財閥の御曹司ジョン・デュポンが声をかける。「私はレスリングの大ファンだ。私が作るレスリングチームに加わってくれないか」と。申し分のない年俸とトレーニングセンター。マークは飛びつくが、彼自身の兄で同じレスリングの金メダリストのデイヴもコーチとしてチームに加わったことから、マークとジョン・デュポンとの関係は微妙に変化していく。マークはデュポンの期待を裏切り、ソウル五輪で敗退。デュポンの失望はデイヴに対する憎しみに変貌し、銃口を向け殺害する。その名を世界に知られた大富豪による金メダリストの殺害事件は恐らく当時のアメリカを揺るがした大事件となって報じられたのだろう。私はこの時、アフリカを駆け回っていたせいか、この事件のことは全然知らなかった。
 感想を正直に書こう。(統合失調症を患う)孤独で独善的な男ジョン・デュポンが常人の理解しがたい犯罪行為に出る背景に母親に対する癒されぬ思慕の念があることがうかがえるのだが、その描写があまりにも淡々としていて物足りなかった。主要登場人物の演技は見事だったものの。
 英語表現で参考になったことが一つ。ジョン・デュポンが日曜日にデイヴの家を訪れるシーンがある。デイヴは愛妻、二人の子どもたちと戯れている。「今日はトレーニングをしないのか?」と責めるかのような不機嫌なデュポンにデイヴは言う。”Today’s Sunday. It’s a family time.” 東京での英字新聞勤務時代にネイティブの同僚に指摘されたことがある。「日本人は父親が休日に家族と過ごすことをよく(和製英語で)ファミリーサービスというが、私は違和感を禁じ得ない。どこか卑猥な印象さえ受ける」と。なるほど ファミリーサービスは正しくは “a family time” なのか!
 とここまで書いてきて、ふと思った。ジョン・デュポンが銃口を向けたのがマークではなく、兄のデイヴだったのは、仲睦まじく家族で遊び興じるデイヴの姿に自分が子供時代にそして今も味わえていない家族の温もりを見て、嫉妬に駆られていたからではないかと・・・。

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