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104歳の大往生

  • 2020-08-03 (Mon) 08:59
  • 総合

20200803-1596412614.jpg 先日、この訃報をCNNとBBCのネットで読んだ。ハリウッドの往年の大女優がパリで死去という見出しだった。Olivia de Havilland という名前を見て、はなから芸能情報に疎い私にはピンとくるものはなかった。しかしながらその享年にちょっと驚いた。104歳。1916年生まれか。私の亡きお袋は1918年生まれだったから、お袋よりもさらに2年の年長者となる。それだけでも心が動いた。記事を読むと、この故人があの名作「風と共に去りぬ」で心優しきメラニーを演じた女優であると知ってさらに驚いた。
 オリビア・デ・ハビランドさん。生まれたのは東京とか。両親は英国人で下の妹ともども健康にすぐれなかったため、2歳の頃に母親に連れられ、米サンフランシスコに居を移し、10代後半で舞台デビュー。1939年の「風と共に去りぬ」のメラニー役でアカデミー助演女優賞にノミネートされる。その後1940年代に2度もアカデミー賞主演女優賞に輝いた。1960年頃からはパリ在住だった。
20200803-1596412656.jpg 私は「風と・・」の中では溌溂としたヒロインのスカーレット・オハラを演じたヴィヴィアン・リーさんに魅せられたが、その親友のメラニーを演じたハビランドさんの清楚な美しさも印象に残っている。メラニーは主要登場人物の中ではあっけなく早世するが、ハビランドさんは実人生では共演者の誰よりも長生きしたということか。
 英文の記事では彼女を the last surviving star from Gone with the Wind であると紹介していた。1980年代後半には第一線からは身を退いたが、俳優業の地位を高める活動で存在感を示し、欧米で数々の栄誉を受けている。CNNのobituary(死亡記事)では次の一節が印象に残った。78歳の時にインタビューを受け、自身の長寿について尋ねられた時、彼女は次のように答えたとか。“I don’t understand the question … I’m only 78 years old!”  御意でござる、御意でござる!
 なお、アメリカではこのところ、Black lives matter(黒人の命も大切だ)運動が契機となり、過去の奴隷制や人種差別に対するバッシングの嵐が吹き荒れている印象だが、「風と共に去りぬ」も南部の奴隷制が背景にある作品だけに批判を受けているようだ。まあ確かにマーガレット・ミッチェルの原作を読むと、黒人蔑視に満ちた描写に出くわし、複雑な思いをすることになる。拙著『アメリカ文学紀行』ではそうした点に触れざるを得なかった。
 ちなみに映画でハビランドさんから助演女優賞を「奪った」女優はスカーレットを温かく見守った黒人の乳母、マミーを演じたハッティ・マクダニエルさん。私は2011年に上記の紀行本の取材でアトランタのマーガレット・ミッチェル邸とその記念館を訪れた。原作執筆の背景や映画制作の裏舞台を紹介した長尺のビデオを見ることができた。マクダニエルさんが受賞を祝う場で壇上から謝辞を述べるシーンがあった。栄えある賞を受けた興奮や歓喜はあまり感じられなかった。当時はアメリカはまだ醜い人種差別が罷り通っていた時代。映画では威風堂々とした名演を披露していた彼女は白人が占める会場で青菜に塩の観を呈していた。まるで一刻も早くその場から立ち去りたいと願っているようにさえ見えた。
 あのビデオを見れば、誰しもマクダニエルさんに同情の念を禁じ得ないと思う。アメリカ社会の今に続く人種問題の当時の厳しさは推して知るべしというものだろう。

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