- 2019-06-30 (Sun) 10:43
- 総合
やはり神様は私にそんなに甘くはなかった。南大隅町は到着して以来、ずっと雨模様。宿の近くの海水浴場は人っ子一人いず、波も荒い。足をまだ冷たい海水につけて引き返した。
温泉で癒された後、宿のベッドに寝転んで(畳の上に、といかないところが切ない)手にしているのは『唐宋伝記集 南柯の一夢 他十一篇』(今村与志雄訳・岩波文庫)の文庫上下本。中国語を学習していなければ一生出合うことはなかった書だろう。書店で何気なく視界に飛び込んできたので買い求めた。
表題ともなっている「南柯の一夢————南柯太守伝」が印象に残った。酒に酔いつぶれて眠りに落ちた男が不思議な魔界のような世界に誘われ、とある王国で立身出世し栄華を味わうが、やがて国王の妬みを買って失脚し、再び人間界に追われ、眠りから覚める物語。夢の中では20余年の歳月を送っていたが、目覚めると眠りに落ちる前と何ら変わっていなかった。男が覚えていた魔界への入り口、古い槐の木の下を掘って見ると、自分が暮らした王国とそっくりの蟻の王国があった。
男はしみじみと述懐する。「ああ、蟻の神秘と不思議は、奥深くて判らない」。そして男は「南柯の虚無をしみじみ感じ、人の世のはかなさを悟って、それからは道教の教えを一心に学び、酒と女色を絶った」という。唐代(618-907)の伝記作家の作品で「人の世の営みのはかなさ」を説いているが、こうした伝承・物語はおそらくどの国(地方)にも似たようなものが残っているのだろう。「酒と女色を絶った」というくだりが耳に痛い。
ところで、この物語の中で男が国王に気に入られ、その娘を妻とする場面が出てくる。その中で天女のように美しい「金枝公主」という娘が登場する。少し前にこの「公主」という語に出合っていた。「プリンセス」という意味だと知っていたので、なるほどと思った。そうでなければ「公主」=「プリンセス」とは到底思い浮かばなかっただろう。
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テレビをつけると、世の中は大阪G20サミットの首脳会議や陸上日本選手権の白熱のレースが話題を呼んでいる。見たくなないのだが、いやでもトランプ米大統領の得意満面な笑顔が飛び込んでくる。彼は素顔はどういう人物なのだろう。案外、気さくで人懐っこくて話の分かる好人物だったりして、と思わなくもない。
だが、世界の平和と安定が彼の頭脳に大きく左右されると考えれば、そう楽観的に思考することも許されない。米CNNはTrump embraces dictators and despots in deal-making G20 summitという見出しで、トランプ大統領が今回のG20サミットでロシアのプーチン大統領、サウジアラビアのムハンマド皇太子らと睦まじく会談したことや、北朝鮮の金正恩氏に直接対話を呼びかけた政治姿勢を皮肉っていた。
CNNの記事ではカーター元大統領がトランプ大統領は「違法な大統領」(an illegitimate president)だと批判しているものもあった。カーター氏は大統領選に介入したと言われるロシア疑惑を念頭にトランプ氏の違法性を指弾している。彼はこれまで意外にもトランプ大統領に好意的な対応を見せていたが、世界の不安定化の最大の要因ともなりかねない米大統領の「暴走」にさすが我慢の限界にきたということだろうか。