- 2017-06-12 (Mon) 13:57
- 総合
『古代中国』(貝塚茂樹、伊藤道治著 講談社)を読んだ。裏表紙に「北京原人に代表される原始時代から秦の始皇帝による統一国家の成立前夜までの悠遠な時間。そこでは、以後の中国、そして東アジア社会を基礎づける独自の文化が形成された」として、この書が殷周や春秋戦国時代を経ての中国古代史を知る格好の入門書とうたわれていた。
門外漢の私にはどの項も興味深かった。「虚をつかれた」こともあった。春秋時代の思想家である孔子(前551-479)が登場した時代の記述だ。これまで考えたこともなかったのだが、この中国思想史の偉人、孔子はイエス・キリストよりもはるか昔に生まれ、活躍した人物であることに初めて思い至った。二人を比べて考えたこともないが、私はしばし考え込まざるを得なかった。どういうことを考えたのか、今ここで記すことは難しい。
それはさておき、古代の中国では主人(貴人)が死去した時に実に多くの人々(奴隷?)が殉葬されていたようだ。200人近い殉葬者の墓が発見されたことなども記してあり、その数に圧倒された。殷の時代には殉葬だけでなく、時に人骨を切断し、砥石で磨き、碗として使われたこともあったとか。この書は次のような見方を提示していた。————これらの器具の素材とされていた人間は、牛や羊などと全く同一視されていたといえよう。おそらく血縁かなにかの社会的な関係で結ばれている範囲が、同じ人間として意識される範囲であり、それ以外は人間とは考えなかった、現在のように種族をこえた「人間」という意識などは全くなかったといえよう————。
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読売新聞の福岡県版に「古墳時代の刀 復元展示」という話題が掲載されていた。復元されたのは、福岡市西区の元岡古墳群から2011年に出土した刀「庚寅銘大刀」(こういんめいたち)。写真で見ると、刀の背の部分に掘られていた文字もきれに復元されている。もっとも私などにはその意味するところは全然分からない。文字は金で装飾した「金象嵌」(きんぞうがん)と呼ばれるもので、西暦570年に作られたと見られる刀だという。
こういう記事は以前はすっと読み飛ばしていたが、今はふと手がとまる。そして思う。「そうだよなあ。この頃はまだ日本では中国から伝来した漢字に頼り切っていたんだよなあ。万葉仮名はなかったんだ。当然、ひらがなやカタカナも生まれていなかったんだ」と。
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トランプ米政権を巡るロシア疑惑が深まる一方だ。先週はジェイムズ・コミィー前FBI長官の議会証言をCNNの生放送で見たが、アメリカの「良心」がいまだ健在であることを感じた、と表現したら言い過ぎだろうか。コミィー前長官は自分が大統領に突然解任された背景にFBIの独立性を揺るがす違法性があったとも主張しているが、驚いたのは、トランプ大統領が要するに「嘘つき」(liar)であると非難していたことだ。私は「嘘つき」とは欧米の社会では最大限の侮辱の言葉と理解している。いや、どこだってそうかもしれない。
トランプ大統領は法廷闘争に打って出る構えのようだが、あれだけの痛烈な非難を浴びせられた大統領がそう簡単に名誉を回復できるものだろうか。