- 2015-05-09 (Sat) 23:34
- 総合
先の連休はちんたらちんたら部屋の片づけと読書で過ごした。読書の方で手にしたのはこのところはまっていた夢野久作の小説。彼の作品は狂人と乞食がよく登場する。それはともかく、日本軍が暗躍するロシア革命後の満州を舞台にした推理小説『氷の涯』という短編を読んでいて、ふと手がとまった場面がある。登場人物の料亭の女将のことを述べた場面だ。
・・・すぐ隣の応接間らしい扉が開いて、奥様風の丸髷に結った女が顔を出した。与謝 野晶子と伊藤燁子の印象をモット魅惑的に取合わせた眉目容(みめかたち)とでも形容しようか。年増盛りの大きく切れ上った眼と、白く透った鼻筋と、小さな薄い唇が水々した丸髷とうつり合って、あらゆる自由自在な表情を約束しているらしかった。その黒いうるんだ瞳と、牛乳色のこまかい肌がなんともいえない病的な、底知れぬ吸引力を持っているようにも感じられた。・・・
与謝野晶子の容貌ははてさて? 伊藤燁子に至っては一体誰? ネットで検索すると、あの柳原白蓮のことらしい。今「夏目雅子と山口百恵を足して二で割ったような」と書けば、私の世代は理解できるが、若い世代は私と同様に???と感じるのだろう。まあどうということもないエピソードなのだが、妙に面白いと思った次第だ。
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ようやく部屋の片付けをやり終えた。不要な物は捨て、当面取って置く物は整理して、すっきりさせた。部屋が片付いていると気持ちも晴れ晴れ。もっと早くこういう状態にしたかったのだが、根がものぐさなものだから、これまでずるずると先延ばしにしてきていた。
そんな折、米誌タイム(電子版)が恒例の「世界で最も影響力のある100人」を発表し、その中に(私はその名を聞いたこともない)日本人女性が含まれているニュースに接した。近藤麻理恵氏。日本人で他に選ばれたのは作家の村上春樹氏だけ。英字メディアでは彼女の職業は “a decluttering consultant” と紹介されていた。日本語だと「片付けコンサルタント」だという。彼女の著書『人生がときめく片づけの魔法』が世界中でベストセラーとなり、今回の選出につながったのだとか。著書の英訳のタイトルはThe Life-Changing Magic of Tidying Up 。
上記の記述から、「片付ける」は tidy up か declutterで表現できることが分かる。彼女は自宅にため込んだ諸々の物がもはや「心をときめかすことがなければ」(if they don’t spark joy in your hearts)、人に譲るなり捨てるなりして、身軽になるライフスタイルを提唱。そうした物を手放す時に、ただ捨てるのではなく、きちんとその物への感謝の念を忘れないように訴えていることが、世界中の人々の琴線に触れたようだ。
実は私も似たようなことを心がけている。例えば、靴屋さんで靴を買い、それまで履いてきた靴をその店で処分してもらう時には必ず、その靴に対し、心の中でそれまで奉仕してくれたことへのお礼の言葉を念じ、お別れする。今回の片付けでも「感謝」の念を忘れずに、多くの品々をごみ袋に投じた。普段の暮らしでも食事した後の洗い物をする時には、まな板や茶わんに「いつもありがとよ」と時に「声」をかけている。年齢を重ねると、言霊(ことだま)という概念にも思いを馳せざるをえない。