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どうもあの駅は苦手だ!

  • 2024-07-07 (Sun) 09:38
  • 総合

 相性の良くない駅というものがあるのだろうか。そんなことを考えてしまう。先週末、大学時代の友人とJR門司港駅で久しぶりに再会し、会食した。小倉駅を過ぎて終点の門司港駅まではそのまま乗っていれば問題なく到着するのだろう。なんとなく分かってはいるが、手前の門司駅に着いた時になぜか私は下車してしまう。先週末は門司駅で降り、ホームを横切り、停車している電車に乗ってしまった。なにかおかしいなと思いながら、乗客の一人に「この電車、門司港駅に行くんですよね?」と尋ねると、「いいえ、これは下関に向かっています」とのこと。ええっ? 下関って対岸の山口県ではないかいな!
 下関駅で小倉行き駅の電車を待って乗り、再び門司駅で門司港駅行きの電車に乗り換え、何とか門司港駅に辿り着いた。何という時間の浪費か! 仕事の疲れに暑さも加わり、疲労困憊。土地勘がないためでもあるが、どうも門司港駅とは「肌が合わない」と思ってしまう。迎えに来てくれた友人に「もう門司港駅で待ち合わせることはやめよう。次からは別の駅にしよう」と言ってしまった。駅には何の落ち度もない。私の「常識と方向感覚の欠如」が並外れているのが問題なのに!
                  ◇
 ネットで日々届く米ニューヨーカー誌のニュースレターは主な記事の見出しをさっと見る。普段はそれで終わることが多いのだが、金曜日のそれには New fiction from Haruki Murakami という見出しがあった。ハルキストと呼ばれる村上氏のファンは知っているのだろうが、そうではない私は初耳。ニューヨーカー誌が取り上げているということは作品が既に英訳されているということだろう。(ネットで調べると、日本語の作品も『夏帆』というタイトルで文芸誌に発表されていることを知った)
 ニュースレターに掲載されていたものをプリンターで印刷して読んでみた。比較的大きな文字で印刷してA4の紙で15枚程度の “Kaho”というタイトルの小品。
 物語の出だしが強烈だった。Kahoの仕事先の上司が設定したブラインドデートで出会った男性がレストランでの食事を一通り終えた後、Kahoに発した次のひと言で物語が始まる。“I’ve dated all kinds of women in my life,” the man said, “but I have to say I’ve never seen one as ugly as you.”(私はこれまで色々な女性とデートをしてきました。しかし、正直言って、あなたのように見苦しい女性に会ったことはありません)
 現実には想像し難い言葉だろう。初めて会った女性にかくも酷いひと言を浴びせる男がいるとは信じ難い。まあ、これは物語だ。Kahoは当然のことながら憤慨するのだが、彼女はそれまであまり自分の容姿を意識することはない女性だった。人がうらやむような美人ではないが、それなりに興味を示す男友達も何人かはいるようなごく普通の容姿。このひと言が契機となってKahoは顔のことを深く考えるようになり、自分の顔の記憶を喪失した女性が自分の顔を求めて旅立つ風変わりな物語を書き上げる。
 “Kaho”の読後感は悪くなかったが、それでも私はハルキストにはなれないだろうとも改めて思った。オンライン英語教室で受講生と読んでいるカズオ・イシグロのイシグロワールドにたゆたう方がずっと「居心地」よく感じる。

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