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スコットランド独立ならず

  • 2014-09-20 (Sat) 09:57
  • 総合

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 土曜日の朝午前8時13分。机の上の温度計はただいま24.8度。湿度は49%。いつもの短パンにランニング姿だと少し肌寒い感じさえする。初秋を通り越して晩秋か? そんなわけはない。太平洋上を日本に向かい、また台風が北上しているではないか。
 英国北部のスコットランドで英国からの分離独立の是非を問う住民投票が実施され、予想通り、独立反対派が勝利した。独立反対55%、賛成45%。賛成派を率い、今回の住民投票を主導してきたスコットランド民族党(SNP)のアレックス・サーモンド党首には手痛い敗北となった。
 昨日は民放テレビも終日賑々しくこのスコットランド問題を報じており、あえてここに書き加えることはないかとも思うが、今頭に浮かんでいることを一つ二つ記しておきたい。
 英国の正式名称は「グレートブリテン王国」(Great Britain)。スコットランドがこの王国の一部となったのは1707年。これより前の1603年にはスコットランドのジェイムズ6世がイングランド王を兼務し、ジェイムズ1世と名乗っていたが、実際上は大国のイングランドが小国のスコットランドを併合したと言えた。
 ケルト系のピクト人、ゲール人などを祖先とするスコットランドの人々はその出自に誇りを抱いており、ゲルマン系のアングロサクソン人を祖先とするイングランド人と混同されることを良しとしない。
 ただし、我々日本人には両者ともあまり区別はつかない。彼らにしてもそのようだ。『イングランド文学紀行』の中でも紹介したが、エディンバラのパブに入って、カウンターの中にいる女性従業員にさりげなく「見知らぬ客が入って来て、スコットランド人かイングランド人か、区別が簡単につきますか」と尋ねたところ、「言葉を聞けばね。そうでなきゃあ、まず、分からないわ」という答えが返ってきた。多くの人が同様のことを話していた。
 どこかで読んだことがあるが、国家が成り立つには、二つの要素が必要であるという。そこに住む人々(国民)が(これからも)一緒に暮らしていってもかまわないという「共通の意思」と、長年の暮らしで共有してきた「共通の記憶」の二つだ。スコットランドの人々には英国民として生きる「共通の意思」が綻びつつあるということだろうか。今回の住民投票を期に彼らの思いがどういう方向に向かうのか、興味深いところではある。
 ヨーロッパでは欧州連合(EU)という従来の国家の枠組みを超えた地域統合の動きもある。SNPが独立を模索したのも、英国という「くびき」よりもEUというさらに大きな「輪」があるではないかという思いがあったからだ。決して「仲間外れ」にされることはないはずだと。ここで思い出すのは、「タイムマシン」や「透明人間」などのSF小説で知られる英国の作家、H.G.ウェルズ(1866-1946)の持論だ。彼は世界から戦争や紛争を根絶するには、既存の国境線など取っ払い、「世界国家(a world state)」の樹立しかないと訴えた。黄泉の国からスコットランドの動きを「小さい、小さい」と嘆いているやもしれぬ。
 もう一つ、スコットランドを取材していて何回か耳にしたのは、この住民投票に熱意を燃やしたSNPのサーモンド党首はスコットランドを独立に導き、歴史に名を残すという個人的野望を抱いているのでないかという疑念だった。このコラムを書いている今、BBCはサーモンド党首の辞任の意思表明を伝えている。
 (写真は、2012年夏のエディンバラの街角。ああ、懐かしい。もう一度訪ねてみたい!)

Comments:4

Taka Asai 2014-09-21 (Sun) 07:00

省一さん 分離独立派が勝利していたら間違いなく今年の世界十大ニュースの1位になったと思いますが、そうならなかった結果に正直ホッとしています。と同時に、一国の将来を左右する問題を、最も民主的な「住民投票」という手法で決着を付けるところは、成熟したGBのイメージと重なります。地方と中央の在り方は、我が国を含めて何もGBだけの問題ではありませんが、、、。

nasu 2014-09-21 (Sun) 07:33

Asaiさん 全く同感です。ところで、ウェルズ翁のところ、少し手を入れ書き直しました。彼の著作に “The Shape of Things To Come” (邦訳『世界はこうなる』)というものがあり、その中で「世界国家」樹立の必然性を説いています。ウクライナ問題や中東の戦火、日中韓の軋轢などを考えると、荒唐無稽と足蹴にはできない論ではあります。

板東美貴子 2014-09-26 (Fri) 12:42

那須さん、興味深いコメントを読ませていただきありがとうございました。
徳島トーストマスターズクラブに以前所属していた(現在子育てのため休止中)マララマ カーマイケル 岸本さんが スコットランド出身で今回の独立問題と National Refferendum について 新聞でインタビューを受けていました。写真に写った彼女の真摯な表情をみて 国家というものの重さを再認識しました。ブレイブハートを通してですが、壮絶な闘いの歴史と味方の軍勢を前にして 流れた メル ギブソンの 素晴らしい スピーチも心に残っています。

nasu 2014-09-26 (Fri) 14:53

板東さん 私は残念ながらその映画観ていないんです。いい映画だとは聞いて知っているのですが。ところで、その後のBBCとか見ていると、スコットランドと比べ、イングランドの東北部とか、1人当たりの国の補助金支出額が極端に少なく、スコットランドに優遇措置が偏り過ぎているとの不満の声がイングランドの地方で大きくなりつつあるとのことですから、英政府はこれから大変そうですね。

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