- 2022-05-24 (Tue) 20:19
- 総合
戸畑(北九州市)にある大学で非常勤講師をしていた頃は講義の前に駅の近くにある食堂に行くのがとても楽しみだった。私の記憶が正しければお昼の日替わり定食が630円。とてもリーズナブルな価格。味噌汁がぬるくなく、副菜の小鉢も嬉しく、メインのおかずもいつも旨かった。その大学での仕事もなくなり、お店をのぞく機会も失われた。今教えている専門学校では毎度、中華レストランをのぞいている。そこも旨いが、和食の日替わり定食が無性に恋しい。そこで今日途中下車してくだんの食堂に。
この日の日替わり定食は豚肉とキャベツの炒め物。私は時々こうした料理をしているが、いかんせん、この店のような味は出せない。漬物もしかり。味噌汁もしかり。ご飯が多過ぎたのは小食に慣れてきているからだろう。これからは時々途中下車しようと心に決めた。
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英語で書かれた短編小説を楽しむ毎月2回のスカイプ英語教室。先の日曜日の教室で風変わりな短篇を読み終えた。アメリカの女性作家、Flannery O’Connorが書いた “A Good Man Is Hard to Find” 。実はこの作品を読むつもりはなかったのだが、読売新聞が日曜日に掲載している書評欄でこの作品のことが簡単に紹介されていた。曰く「オコナーの『善人はなかなかいない』だけは作品中で起こる出来事と、登場人物たちのあいだで交わされるやりとりがあまりにもストレートに恐ろしいので、少々ご注意ください」と述べられていた。
それでああ、確かにそうだった。私も初めてこの小説を読んだ時に奇妙な読後感を抱いたことを思い出した。この作品は世界の秀でた短篇を集めた “50 Great Short Stories” という短編集の中に含まれていた。書評欄でそのことを思い出し、英語教室で受講生に読んでもらおうと考えた。書評欄で紹介されていた通り、心して読む必要がある作品だ。
登場するのは自らをThe Misfit と呼ぶ脱走犯。行きずりの人々を冷酷に射殺することなど意にも介さない極悪人だ。社会に馴染めないのでThe Misfit と自称しているのかと思いながら読み進めていたが、作中で自分の犯行と処罰が釣り合わない、割に合わない罰を科せられているからThe Misfit と呼んでいるのだということが明らかにされる。
彼は行きずりの一家6人を情け容赦なく射殺するような極悪人なのだが、手を下す直前に一家の老婆と交わすやり取りが興味深い。老婆は何とかThe Misfit のご機嫌を取ろうと、やれ高貴の血が流れているに違いないだの、根は善人に違いないだのとおべんちゃらを言う。聖書に記されているキリストの復活(resurrection)も話題に上がる。老婆はキリストを崇める心を説くが、The Misfit は自分がもしキリストの復活を自分自身の目で目撃していたなら、こういう人生を歩んでなどいないだろうと一蹴する。
この作品が発表されたのは1955年。作家自身は難しい病気に冒されていたようで1964年に39歳の若さで没している。ウクライナ情勢のこともあり、上記のキリストの復活のくだりが現実味を帯びて迫ってくるようだ。
余談を一つ。次のような一節があった。… said the children’s mother hoarsely. 私はこの hoarseが苦手。「 (声が)しわがれた、かすれた」という意味で発音はお馬さんのhorse と同じ。だが、私はどうしてもこの語をホースではなく、ホアースと発声したくなってしまう。