- 2022-03-05 (Sat) 09:24
- 総合
ウクライナ情勢は最悪の事態に向かいつつあるようだ。ロシア軍の愚かで無慈悲な攻撃に苦しんでいるキエフや他の都市に住む人々を思うと心が塞ぐ。今回の軍事侵攻が起きるまでウクライナという国はその位置さえ明確に認識していなかった。旧ソ連邦を構成していた国であることは承知していたが、東欧周辺の国には足を運んだこともない。
今回の侵攻でウクライナの人々がロシアと同じ民族系統に属し、言語・文化的にも兄弟のような近い関係にあることを改めて知った。ただ、ウクライナの大多数の人々は欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)に加盟することを望んでおり、ロシアとは距離を置きたいと考えていることも。
プーチン露大統領の心中は知る由もないが、一連の報道から察するに、彼がウクライナの親欧米路線に憤まんを募らせていたことは間違いないだろう。このまま手をこまねいていれば、ウクライナがロシアから完全に遠ざかってしまうという危機感。ソ連邦の崩壊に伴い、独立したウクライナを再び「奪回」し、かつての「帝国」を復活させたいという野望も透けて見える。それにしても都市部の住宅地区への無差別砲撃を繰り返し、あろうことか欧州有数の原発施設にも砲火を浴びせる狂気としか思えない愚挙にまで出ている。そうは信じたくはないが、世界はそして人類はいよいよ黙示録の終末期に入りつつあるのだろうかとさえ思えてくる。
ウクライナ情勢を見ていて、オンラインの英語教室で読んだばかりのオー・ヘンリー賞受賞の短篇を思い出した。David Rabeという名の米劇作家の “Things We Worried About When I Was Ten” という作品。若手の作家だろうと思って読み進めていたら、米中西部で育った彼が子どもの頃に夢中になった野趣あふれる遊びや地域の風習、小学校の授業風景などが出てきて、あれ、これは私の少年時代と似てなくもない。それでネットで作家の名前を検索すると、1940年生まれとある。私より一世代上の世代だが、凄く「感情移入」できる作品だった。
主人公の少年Danny Matzの友人、Jackieは同級生たちの不幸を一人で背負い込んだような幸薄い少年だった。家庭環境にも恵まれず、4歳で母親を亡くし、継母が来る。父親や継母から虐げられる日々。ある日、継母が台所で肉挽き器を操作していて、誤って親指を切断してしまう。これを目撃したJackie少年は近所中を駆け回り、 “Stepmom May cut her thumb off in the meat grinder” と大声で触れ回る。
Danny少年は最初、Jackieがなぜ狂ったように継母の不運を触れ回っているのか理解できなかったが、やがて腑に落ちる。継母が自分の親指さえ切り落とすことをしでかすなら、所詮赤の他人に過ぎない僕にはどんなことをするだろうか。僕もそのうち肉挽き器に詰め込まれてしまうことになるのかと恐れおののいているのだ。それで近所の人たちに自分がどういう「危機」に直面しているかを「告知」しておきたかったのだと。
兄弟のような近しい民族のウクライナの人々をさえ情け容赦なく蹂躙するプーチン大統領。ただでさえ疎遠な関係の日本もJackieのようにロシアの蛮行を国際社会に喧伝する必要がある。もっとも、国際社会はすでにそれは十分承知しているが・・・。