- 2012-06-26 (Tue) 23:41
- 総合
イザベルを訪ねてやって来る彼女の友人で雑誌記者のヘンリエッタとタチェット夫人との口論が面白い。アメリカのホテルは最低と罵る旅慣れた夫人に対し、ヘンリエッタはあら、アメリカのホテルのような良さは世界中どこを探したってありませんことよと挑戦的に応じる。同じアメリカ人同士とはいえ、数日間お世話になる家を客として初めて訪れて、出会ったばかりの年長の女主人に真正面から異を唱えるヘンリエッタ。作家は若い「アメリカ」の姿を彼女の言動で象徴的に示しているかのように私には思えた。二人のやり取りはさらに続く(注)。私はこの部分はヘンリエッタに軍配をあげたい。
ヘンリエッタにはイングランドで貴族的な生活を送るタチェット一家が理解できない。それを好奇心一杯で見守るイザベルにも不信感を抱く。そのイザベルにウォーバートン卿は求婚する。イザベルはありがたく思いながらも、まだ自分の人生を結婚という形で枠にはめることは嫌で拒絶する。
イザベルはアメリカから彼女に恋焦がれ後追いして来たグッドウッドの求愛も拒絶する。その彼女が段々と惹かれていくのが、タチェット夫人の友人で未亡人のマダム・マールに紹介されたオズモンド。もともとはアメリカ出身で40歳。俗事には手を染めない「浮世離れ」した印象を受ける男だ。一人娘がいるが、現在は独身。特段の仕事には就いておらず、フィレンツェで気楽な暮らしを楽しんでいる風情だ。汗して働き、食い扶持を稼ぐことなど、はなから頭にない男であり、読んでいて全然好感は持てない。この物語に出てくる人物はほぼみなそういう人たちであり、彼のことだけを責めるのは片手落ちであろうが。
オズモンドはマダム・マールから「あの子はいい子だわ。23歳の若さで、美貌だし、アメリカ人にしては家柄も悪くない。頭もいい。それにすごくお金を持っている」とけしかけられる。タチェット氏は死去直前、ラルフの強い要請を受け入れ、イザベルに多額の遺産が行くよう遺言状に手を入れたのだ。イザベルはそうした自分への配慮に全然気づいていないが、マダム・マールはタチェット夫人から聞いて知っていた。
オズモンドはイザベルがウォーバートン卿の求愛を拒絶したことを知り、ますます彼女に興味を抱く。オズモンドが鼻持ちならないと思うのは次のような記述に出会った時だ。
He had never forgiven his star for not appointing him to an English dukedom, and he could measure the unexpectedness of such conduct as Isabel’s. It would be proper that the woman he might marry should have done something of that sort.(彼は自分がイングランドの侯爵の身分になれなかった自らの運命をずっと恨んできた。だから彼にはイザベルが貴族の求愛を拒絶するという行為のただならぬ意味がよく理解できた。そのようなことをやってのける女性は自分の妻としてまさにふさわしいと思うのであった)
イザベルもほどなくオズモンドに惹かれるようになり、マダム・マールの「後押し」もあり、タチェット夫人やラルフの強い反対を押し切り、結婚する。
(写真は上から、ラムハウスで販売しているパンフレット。ラムは小さい町だが、こんな感じのカフェが結構ある。スコーン二個が付いたクリームティーはこんな感じ。これで4.50ポンド=約630円。クリームとジャムをスコーンにたっぷり塗って食する)
注)ヘンリエッタとタチェット夫人の口論は次のようなものだ。
“If you’ve not good servants you’re miserable,” Mrs Touchett serenely said. “They are very bad in America, but I’ve got five perfect ones in Florence.”
“I don’t see what you want with five,” Henrietta couldn’t help observing. “I don’t think I should like to see five persons surrounding me in that menial position.”
(「優秀な使用人がいなければ、それは困るものよ」とタチェット夫人は穏やかに言った。「アメリカではとてもひどい。でも、(別荘のあるイタリアの)フィレンツェでは5人の完璧な使用人を使っているわ」
「私には奥様が5人もの使用人で何をなさりたいのか分かりませんわ」とヘンリエッタは口をはさまずにはおられなかった。「私は5人もの使用人にかしずかれる生活をしたいなんて思ってもいませんことよ」)
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