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チャールズ・ディケンズ (Charles Dickens) ③

  • 2012-06-21 (Thu) 07:58
  • 総合

 書名となった表現は第18章で出てくる。ピップがジョーの下で働くようになって4年目のことだ。ある夜、村にジャガーズと名乗る弁護士がロンドンからやって来て、二人に告げる。ピップが匿名の第三者からgreat expectationsの相続人となったと。ジャガーズからピップとの徒弟関係の破棄を求められたジョーは一も二もなく了解する。
 幸運にも「大いなる遺産」を手にすることになったピップは有頂天になる。ジョーも今の鍛冶屋の地位から上の階層に引き上げてやろうなどと勝手に夢を膨らませる。そんなピップにビディは言う。そんなことなどジョーはして欲しいなどと思っていないわ。「ジョーは今のままで十分自分に誇りを抱いているわ。そんなことも分からないの?」(“Have you never considered that he may be proud?”)と。
 さらに、ピップのそうした「上から目線」の発言にビディが疑問を呈すると、ピップは「君は嫉妬しているんだ。ねたんでいるんだ。僕がお金持ちになったのが面白くないんだ。だからそう言っているんだ」(“You are envious, Biddy, and grudging. You are dissatisfied on account of my rise in fortune, and you can’t help showing it.”)とまで非難してしまう。ピップは自分が「俗物の塊」と化してしまったことを自覚していない。
 ピップはロンドンに出て、念願のジェントルマンとなる。この後、ピップは自分の匿名のパトロンだったのがハビシャム女史ではなく、子供のころ、脅されて逃亡を手助けした囚人だったことを知る。流刑地のオーストラリアで財を成した囚人がピップのパトロンとなっていたのだ。物語はこの囚人がピップに会いに再びロンドンにやってきたことで波乱に富んだ展開となるが、その過程でピップは自分がいかに浅薄な考えで生きてきたかを悟り、自分をずっと可愛がってくれたジョーやビディへの忘恩を恥じいるようになる。華美な生活がたたったこともあり、破産に追い込まれたピップの債務をジョーは支払い、病の床にあった彼を一心に看病し、立ち直らせてくれたのだ。忘恩については私など亡き母や姉への感謝の念に最近になるまで思い至らなかった。ピップの足元にも及ばない。
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 物語の大団円は10年以上の歳月が流れ、無一文の身から海外の商社で働く30歳代のピップが帰郷してのシーンだ。ピップはずっと独身。ジョーやビディと再会する。ピップの姉に先立たれたジョーはビディと結婚し、二人の子宝に恵まれていた。二人は長男をピップと名付けていた。ピップはエステラとの思い出の屋敷に足を向ける。屋敷は取り壊されていたが、庭園の後は残っていた。日が暮れて夕闇が迫る中、霧の中に人影が見える。近づくと、なんとそこにいたのはエステラ・・・。彼女は確かに年齢を重ねていたが、その美しさ、魅力は何ら衰えてはいなかった。彼女は最初の不幸な結婚に失敗し、ハビシャム女史の財産を受け継いだ今、思い出の屋敷を整理するため、偶然足を運んだところだった。彼女はピップに語る。近頃はあなたのことをたびたび思い出していましたわと。
 The freshness of her beauty was indeed gone, but its indescribable majesty and its indescribable charm remained. Those attractions in it, I had seen before; what I had never seen before, was the saddened, softened light of the once proud eyes; what I had never felt before was the friendly touch of the once insensible hand.(彼女の美貌からは初々しさは確かに失せていた。しかし、表現しづらい気高さ、形容しづらい魅力は何ら衰えていなかった。僕をかつて虜にしたものだ。以前に見たことがなかった特質も彼女は宿していた。あのかつては自信にあふれていた目には憂いと優しさが漂い、温もりなど感じられなかった手にはこれまで感じたことのない温かい感触があった)
 (イングランドは今、サッカー欧州選手権でイングランドが8強に進出したことが大ニュース。写真は、20日のタブロイド紙の一面。8強進出を決めた前日の勝利の立役者はFWルーニー選手。彼が高いお金をかけて植毛していることを念頭に置いた見出しで祝っていた。Hair weave go! [Here we go!] 。スポーツ紙、タブロイド紙がダジャレ好きなのは日英共通だ)

Comments:2

たかす 2012-06-21 (Thu) 09:11

男女間の愛情を扱わない小説はないとしたA.Trollpeという小説家も同時代にいましたから、この大いなる遺産もその点が強い関心をひくのは当然でしょう。ただ、TrollopeよりもDickensの評価が高いのは、この小説の第54章にあるピップとマグウィッチの再会のあとでピップが変わるところにあるかもしれません。私も年をとったためでしょう、そんなところを読むと鳥肌がたつ思いをします。

nasu 2012-06-21 (Thu) 17:15

先生 ご指摘の件は全くその通りです。ピップが意識も定かでないほどの症状でベッドで伏せっていた時、親身になって世話をして、負債まで支払ってくれたジョーに、自分の忘恩を恥じ入ることも含めて、ピップの人間としての成長を指摘しないといけませんでした。「課題」にしておきます。

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