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グレアム・グリーン(Graham Greene)②

  • 2012-10-03 (Wed) 04:29
  • 総合

 ルイーズが南アに立った後、スコービーはベンデという地に出向く。乗っていた船が敵軍から銃撃を受け、ボートで40日間も漂流していた乗員、乗客の事情聴取のためだ。生存者の一人、機関長はスコットランドなまりの英語でスコービーに語りかける。“Ah’m Loder, chief engineer.” 翻訳本では「わたすは機関長のローダーです」と訳されていた。日本語なら東北弁の感じだろうか。翻訳者の苦労がうかがえる。
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 書名の “The Heart of the Matter” は小説のほぼ真ん中、第二部の始め辺りに出てくる。救出された人々が収容された救護所の外でスコービーが夜、一人たたずみ、その夜が越せないであろう重篤の幼児や生死の境をさまよう女性など、彼らの置かれた境遇に思いを馳せるシーンだ。その部分を引用すると・・・
 Outside the rest-house he stopped again. The light inside would have given an extraordinary impression of peace if one hadn’t known, just as the stars on this clear night gave also an impression of remoteness, security, freedom. If one knew, he wondered, the facts, would one have to feel pity even for the planets? if one reached what they called the heart of the matter?(救護所の外で彼は再び立ち止まった。中の明かりは状況を知らない人には平安そのものの印象を与えたことであろう。それは丁度雲一つない夜空の星たちが隔絶、安全、自由といった印象を与えるように。彼は思った。もし我々が事実を知ったなら、そうした星たちにも憐みの感情を覚えなくてはならないものであろうか。いわゆる事象の核心と呼ばれるものを理解しえたとしたなら)
 私が共感を覚えたのは、先述の生死をさまよった女性、ヘレンが新婚の夫を上記の事故で失い、そのことをもうすでに遠い過去のように忘れ去ろうとしていることを嘆き、「私ってなんて嫌な女かしら」と自嘲気味に語る場面で、スコービーが彼女を優しく慰める場面だ。“You needn’t feel that. It’s the same with everybody, I think. When we say to someone, ‘I can’t live without you,’ what we really mean is, ‘I can’t live feeling you may be in pain, unhappy, in want.’ That’s all it is. When they are dead our responsibility ends. There’s nothing more we can do about it. We can rest in peace.”(「そんな風に感じるべきではないよ。皆同じようなものだと私は思う。『あなたなしには生きていけない』と人が言う時、その意味するところのものは、『あなたが苦しんでいたり、不幸であったり、貧しい暮らしにあることを承知の上で、生きていることはできない』ということだ。でも、愛する人が死んでしまえば、責任はそれで終わる。我々ができることは何も残されていないのだから。心安らかに休息することができるってわけさ」)
 グリーンは1904年の生まれ。カトリック教徒の妻と結婚するために、カトリック教に改宗したが、最後まで宗教については思い悩んだと言われる。“The Heart of the Matter” はそうした作家の信仰や神に対する考えがにじみ出ている作品だ。私はこの本のタイトルは『事象の核心』の方がいいと思う。森羅万象の「事象」だ。
 (写真は、バーカムステッドで催されたグリーン・フェスティバルの研究発表の様子)

Comments:1

たかす 2012-10-03 (Wed) 09:36

写真の研究発表を聞く人々はおそらく70台の人たちでしょう。第二次世界大戦が終わってプロテスタント・カトリック両方に目を向ける人たちがたくさんいて、とくにカトリック作家は日本も含めて優れた作品を多く出しました。グリーンもその一人。1960年代には若者がカトリック研究会世界中に作りました。日本では間もなく信仰ではなく社会問題が若い人たちを巻き込み、君の先輩の一人は全共闘の闘士として地下にもぐりました。1970年以後、日本の若者は信仰でも政治でもなく豊かな生活を享受するようになりました。そして窮乏の若者時代です。会場にいる人たちはグリーンの話を聞きながら若い時を思い出していたことでしょう。

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