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H. G. ウェルズ(H. G. Wells) ③

  • 2012-08-30 (Thu) 05:16
  • 総合

 ウェルズは1866年にケント州の商家の4人兄姉の末っ子として生まれている。父親はクリケットのプロの選手で、商いよりもこちらの方の報酬が一家の貴重な収入源だった。その父親がけがで選手生活を断たれたことから、13歳のウェルズ少年は兄とともに年季奉公に出ることになった。裕福で恵まれた幼少期を送ったわけではないようだ。だが、教育の機会はそれなりに与えられていたようで、その後、奨学金を得て、サイエンスを学ぶ学校(現在のインペリアルカレッジ・ロンドン)に進学している。この学生時代にサイエンスの機関誌編集に携わり、この機関誌上で後に“The Time Machine” として発表されることになる小説を書いている。
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 ウェルズは1946年に没しており、80年近い生涯を生きているから、晩年は文壇の「大御所」的存在だったのだろう。“The Time Machine” に代表されるサイエンスフィクションだけでなく、多くのジャンルの作品を書いている。言論活動も活発で政治の世界にも身を投じている。有り余る才能、エネルギーがあった人物のようだ。
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 さて、物語に戻ろう。タイムトラベラーは乗ってきたタイムマシンがモーロックスに盗まれたため、自分の時代に戻るため、モーロックスの世界に忍び込み、奪還を計画する。親しくなったエロイの人たちからは考えられない危険極まりない行動だ。その過程で苦労するのだが、最終的にタイムマシンを取り戻すことに成功し、何とか英国へ帰還を果たす。
 ちょっとした恋のお話も盛り込まれている。「私」はエロイの人々と暮らすうち、川で流されていたウィーナという女性を助けたことから、彼女と親しくなる。どこまで親しくなったのかは定かでないが、ウィーナは「私」が行くところどこでもついて来るような親密さだ。「私」もウィーナを自分の住む世界に連れ帰ろうと思うほどに大切に思うようになる経緯が述べられている。結果的にはモーロックスの集団に襲われる混乱で、ウィーナを守り通すことはできなかったのだが。
 タイムマシンの原理や時空を超える理論的な詳しい説明はなく、あくまで「夢物語」だ。(説明があったとしても私に理解できたはずもないが)。また、人類がその西暦8万年だかの気の遠くなるような時代に「搾取」と「奉仕」の関係が逆転した二つの人間に「枝分かれ」しているとの主張も受け入れ難い。だが、次のような記述には共鳴できる。
 It is a law of nature we overtook, that intellectual versatility is the compensation for change, danger and trouble. An animal perfectly in harmony with its environment is a perfect mechanism.(我々は自然の摂理を追い越してしまったのだ。頭を働かせ何でもかでも思い通りにしてしまったがために、人類は変化や危険、災難に直面する羽目に陥った。環境と完全に調和して生活する動物のみが狂いのないメカニズムを享受できるのだ)
 大地震、地球温暖化、異常気象、感染症、家畜の疾患。我々の周囲は一昔前には聞いたことのないような災いがあふれている。
 (ウェルズゆかりのものを探すのは難しかった。やっと見つけたのが、ロンドン近郊のサリー州ウォーキングの商店街に設置されていた、彼の作品 “The War of the Worlds” (邦訳『宇宙戦争』)にまつわるモニュメント。この作品は人類と火星人が戦うサイエンスフィクションで、モニュメントは火星人が戦いに使ったロボットのイメージか。ウォーキングは作品中で火星人が飛来してきた地であるとされたことから、作品発表の100周年に当たる1998年4月に制作、設置されたとか)

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