- 2012-08-28 (Tue) 07:53
- 総合
H. G. ウェルズが “The Time Machine” (邦訳『タイムマシン』)という作品を書いたことは承知していたが、読んだことはなかった。今回の旅にウェルズを含めようと思い、福岡の書店の洋書コーナーに足を運んだ。彼の著作が何冊か並んでいた。うれしいことに“The Time Machine” はスリムな本であることが背表紙から分かった。原書で読むことが大変な身には飛びつきたくなるような薄さだ。一も二もなく買い求めた。
物語は好奇心旺盛、遊び心たっぷりの男が自宅に語り手の「私」や医者、心理学者らを招き、時空を自由に駆けることができるタイムマシンの概念を語るシーンから始まる。男は「タイムトラベラー」(Time Traveller)と紹介されている。あえて日本語にする必要はないかとも思う。強いて訳せば「時空超越旅行者」とでも訳すのだろうか。「私」を含め半信半疑の客たちにタイムトラベラーは自分が作ったタイムマシンを見せ、これで時空を超えてタイムトラベルができるのだと語る。
一週間後、「私」が再び彼の自宅を訪れると、タイムトラベラーは在宅でなかった。客は前週も同席していた医者と心理学者、その他には著名な日刊紙の編集長と記者、無口な男がもう一人。主のタイムトラベラーは遅れてやってきた。その身なりたるや汚れにまみれ、顔には血が出た切り傷も見られる惨憺たる姿で、食堂に会した一同は唖然とする。
タイムトラベラーはテーブルの上のワインをあおると、着替えさせてくれ、その後にゆっくり何があったのか話してあげようと言って食堂を一旦立ち去る。主を抜きにした食事の合間、「私」はタイムトラベラーが前週に語ったタイムトラベルの概念を初めての客に説明する。編集長と記者はあきれ果て、そうした摩訶不思議があるわけがないと一蹴する。彼らは次のように述べられている。
They were both the new kind of journalists ― very joyous, irreverent young men.(彼らは二人とも新しいタイプのジャーナリストだった。非常に元気がよくて、礼儀はあまりわきまえていない若い男たち)。この本が刊行されたのは1895年。私が購入した原書の「注釈」では、作品の中に登場する記者は19世紀末から20世紀初頭の英国で隆盛だった調査報道やセンセーショナリズムが特徴の「ニュージャーナリズム」に奔走した記者だと述べられている。そうした記者はウェルズにはあまり好ましく映らなかったのだろう。
以前に読んだ英国のジャーナリズム関連の本で、19世紀当時に特ダネを焦った記者が記事を捏造した話が紹介されていた。この記者は米国から英国に里帰りした男が行方不明の妻と涙の再会をして一緒に再び新世界に旅立つ架空の話題をでっち上げた。デスクはこの記事を激賞し、アメリカにいる自社の特派員にこの夫婦が乗船した船便を連絡し、船が着いたら、きちんと取材し、続報を送るように命じた。最初の記事を捏造した記者は恐怖と後悔の日々を送る。だが、なんと、その後、アメリカにいる特派員からこの夫婦が無事歓喜の帰国をしたという続報が送稿されて来る結末!だった。
英国では昨今タブロイド紙の電話盗聴事件が物議をかもしている。あまり昔の同業者を笑える状況ではないようである。
- Newer: H. G. ウェルズ(H. G. Wells) ②
- Older: ベルファストに
Comments:4
- Taka Asai 2012-08-28 (Tue) 11:49
-
省一さん、「さるく」も後半戦ですね。そろそろ疲れがたまり始めていないか案じております。わずか5日間でしたが、五輪期間中に買った地元紙を現在整理していますが、アバウトな数字で結構ですのでの、もしわかれば発行部数を教えてください。手元にあるのは Daily Telegraph, Sun, Mirror, Times, Independent, Guardian, Observer, Mailの8紙です。引き続き旅のご無事をお祈りしています。
- たかす 2012-08-29 (Wed) 04:07
-
このサイト情報がお役に立つでしょうか。http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_newspapers_in_the_United_Kingdom_by_circulation
オリンピックのロンドンに行かれたんですね。うらやましい限りです。 - nasu 2012-08-29 (Wed) 04:17
-
Asaiさん たかすさんご指摘のサイトに当たってみてください。一目瞭然の表が出ています。各紙とも部数が軒並み減少して苦戦していることがよく分かります。
たかす先生 ご指摘ありがとうございます。助かりました。 - Taka Asai 2012-08-29 (Wed) 04:48
-
省一さん、たかす先生、こんなデータがあるとは知りませんでした。出典がABCなので確かですよね。日本ほどでないにせよ、英国各紙の凋落ぶりがよく分かりました。あらためてお礼申し上げます。