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E.M.フォースター(E. M. Forster)④

  • 2012-07-28 (Sat) 04:52
  • 総合

 フォースターは母子家庭で育ったものの、裕福な伯母の遺産もあり、経済的にはとても恵まれて成長した。ケンブリッジ大学に進み、卒業後も定職に就かずとも、生活することができた。大学で彼はリベラルな思想を「開花」することができたようだ。ヴァージニア・ウルフの項で述べたボヘミアン的な「ブルームズベリーグループ」にも参画している。
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 生涯を独身で通した彼はゲイだった。彼は生涯の後半は母校のケンブリッジ大学のキングズカレッジ(King’s College)で終身名誉特別研究員(an honorary lifetime fellowship)として暮らしている。キングズカレッジのアーカイブ(文書保管所)には作家に関する貴重な文献が残されている。数日間そこに通って彼が書いた回想録などに目を通していたら、職員の人が一冊の伝記本を手渡してくれた。2010年に刊行された “Great Unrecorded History: A New Life of E.M. Forster” (著者Wendy Moffat)という伝記本だった。
 この伝記で、フォースターにとって、自分がゲイであるという事実が彼の作家としての生涯に大きな「足枷」となっていたことが理解できた。英国でゲイの作家と言うと、オスカー・ワイルドのことが頭に浮かぶ。1895年に同性愛の罪で逮捕され、華やかな人生は破綻する。この事件後、多くのゲイ志向の人たちが私生活をベールで覆って暮らす。
 フォースターもそうした一人だ。彼の場合の悲劇は、ゲイであることを隠さなくてはならないことから、無限にあったと思われる「創作意欲」が損なわれたのではないかと推量されることだ。彼のそうした苦悩は死去した1970年の翌年に発表された “Maurice” で明らかにされているが、上記の伝記によると、フォースターは生前、日記の中で次のように慨嘆していたと言われる。“I should have been a more famous writer if I had written or rather published more, but sex has prevented the latter…” Adding, “When I am 85 how annoyed I am with Society for wasting my time by making homosexuality criminal.” (「私はもっと作品を書いていれば、いや、書いたものを発表できていれば、もっと有名な作家となっていただろう。しかしながら、性のため、書いたものを発表することができなかったのだ」。さらに続けて「私は85歳になった時、つくづく嫌気が差したのだ。この社会は、同性愛を犯罪とすることで私の時間を何と浪費させたことか」と)
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 今では英国でゲイであることで、作家や芸術家が迫害される時代ではない。アメリカもしかりだ。テネシー・ウィリアムズは自分がゲイであることで、「黒人や社会的少数派の人々に対する優しい視点」を身に付けたことを、昨年のアメリカの旅で知ったが、フォースターには「百害あって一利なし」だったのか。前項で紹介したフォースターを慕う人々の集まりThe Friends of the Forster Countyのホームページには、作家は疎外感を感じていたからこそ、世の中や同胞を冷徹に洞察できる、作家としての大切な素養に恵まれたのではないかと書かれている(注)。それは「代償」として高かったのか、低かったのか。フォースターは「途方もないほど高過ぎた」と答えるのではないか。
 (写真は、ケンブリッジ大学の中でも観光客が目立つキングズカレッジ。作家が終身名誉特別研究員として暮らしたキングズカレッジの二階の部屋は写真中央辺りとか)

 注)次のように述べられている。“His homosexuality would provide constant discomfort, the novel Maurice (posthumously published) expressing passion unfulfilled until later life. He’d often feel like an outsider, an authorial position allowing him to scrutinise the foibles of his peers with perspicacity.

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