Home > 総合 > ジョセフ・コンラッド(Joseph Conrad)①

ジョセフ・コンラッド(Joseph Conrad)①

  • 2012-07-18 (Wed) 05:12
  • 総合

null
 英国は今、間近に迫ったロンドンオリンピックの警備・治安対策の不手際がメディアを賑わせている。警備を担当する民間警備会社の要員が足りないことが最近になって判明し、軍兵士や警察官を急遽動員する緊急事態になっているからだ。
 五輪を控えたこの時期にぜひ取り上げたいと考えていたのが、ジョセフ・コンラッドが1907年に刊行した小説 “The Secret Agent” (邦訳『密偵』)だ。コンラッドは1857年に当時のロシア領(現在のポーランド)で生まれ、英国に帰化した。その重厚な文体などから「英語のドストエフスキー」との評もある作家だ。アフリカに親しんだ私にはアフリカを舞台にした作品 “Heart of Darkness” (邦訳『闇の奥』)が印象に残っている。
 “The Secret Agent” を最初に読んだのはいつだったか良く覚えていない。アメリカが標的になったあの2001年の9・11の前だったか後だったか。どちらにしても、最初に読んだ時は現代の時代との差異あるいは類似点を特に意識して読んだとは思えない。今回、この旅にこの本を含めようと再読して驚いた。私が再読した原書の序文は、現代のテロ問題の専門家が書いていた。専門家はその中で、この小説の「現代性」を指摘し、小説に描かれている内容はあの9・11テロと比較すべくもないが、犯行に関わる人物、及び周辺にうごめく関係者の心理状態や背後関係の描写は、21世紀の現在のテロリズムを考察する上でも大いに参考になる書と称賛していたからだ。100年前に刊行された小説がだ。
null
 その専門家の見解は概ね次のようなものだった。宗教対立を背景にした「聖戦」であれ、人種的少数派の決起であれ、現実にテロに身を投じる実行犯にはそれぞれの生い立ちがあり、家族がある。テロ組織がテロの実行犯としてリクルートするのは社会からの疎外感を抱いていたり、生きがいを見出せない若者たちだ。社会がより豊かになるにつれ、脆弱性も増している。“The Secret Agent” ではそうした側面が良く描かれており、現代に住む我々は疎外感を抱いた人々が社会に牙をむく危険性を十分認識して生きなくてはならないと。
 作品の冒頭に描かれるのはロンドンのうらぶれた通りにある商店。普通の商店ではない。客がコートの襟を立てて入店してくるようなポルノショップだ。私も覚えがあるようなないような。商店主は太った中年男のアドルフ・ヴァーロック。だが、彼には裏の顔があり、とある大使館、いやはっきり言えば、当時の帝政ロシアの大使館に極秘の諜報員として雇われている。本文中では ‘agent provocateur’ と表現されている。私が買った原書には末尾に注が付いており、それには以下のように記されていた。
 (French) an agent planted by the police whose purpose is to provoke the infiltrated group into overt criminal activity. ({フランス語}反政府グループなどの組織に入り込み、彼らを犯罪に煽り立てるように警察に雇われた秘密情報員)
 (写真は上が、ロンドンの新聞が報じているロンドン五輪の警備対策問題。「雨降って地固まる」になればいいのだが。確かに「雨」だけはうんざりするほど降り続けている。ケント州のカンタベリー博物館に設けられていたコンラッドのコーナーで見かけたコンラッドの胸像。ケント州で暮らしたコンラッドはカンタベリーの墓地で眠っている)

Comments:2

たかす 2012-07-18 (Wed) 06:00

コンラッドですか。話は追々聞くとして、書斎が復元されていますね、写真に。そこで君の知見を得たいのが照明のこと。私の記憶にあるイギリスは蛍光灯時代以前のもので、室内照明は部屋の隅にある天井灯と机上のスタンドでした。室内照明を部屋の真ん中の天井灯ではなくて、隅っこにある電球が主役であるのが不思議でした。いまはどうですか?想像したところでは室内で暖がとれる階層の人たちは暖炉のまわりに座っていて、室内照明も暖炉の火ですませたことの名残かなと言うことでした。あてになりません。これが確実に当てはまったのは19世紀半ば頃まで。私のイギリス滞在は1971ー2年のことで、ディケンズが死んで100年経っていました。彼の本は誰かが読み上げて他の人は聞くのが普通の時代のものです。100年以上まえの室内照明方式が連綿として続いていたなんて話としては面白いですけれど。今はどうですか。

nasu 2012-07-18 (Wed) 16:32

先生 ゲストハウス(B&B)暮らしですからよくは分かりませんが、今は部屋の中央に天井灯のようなものがあります。あまり明るくないのと、部屋が広いから、これだけだど暗いですね。それで、ベッドの側や机の上に小さいスタンドが置いてあったりします。それでも全体的には夜は暗いですかね。

このアイテムは閲覧専用です。コメントの投稿、投票はできません。

Home > 総合 > ジョセフ・コンラッド(Joseph Conrad)①

Search
Feeds

Page Top