- 2012-07-08 (Sun) 22:48
- 総合
ドーチェスターから西に路線バスで約30分走ったところにあるウインターボーン・アッバスという名の村にあるゲストハウスでこの数日間寝起きした。雨模様の天気が続き、ドーセットの名高い丘陵の景観を楽しむといった風情ではなかった。
幸いなるかな、明日でお別れという日にゲストハウス近くの農場を訪れる機会に恵まれた。近くのパブで毎夜、ギネスビールと食事をしていた折、農場を営む夫妻に出会った。イアンとデニース。私と同じ世代ということもあって、話が弾んだ。「暇があったら、農場にお出でなさい」と誘われた。翌日はドーセットに来て以来、初めて晴れの天気。
イアン夫妻は15年以上、 “biodynamic farming” と呼ばれる究極の有機農法で農場を手がけている。農薬や肥料といったものは一切使用しない。自然が含んでいる栄養素、治癒力を最大限に生かして農作物を作り、家畜を養うのだという。「スーパーの棚に並んでいる肉類をごらんなさい。まるでベルトコンベアーで出て来た車や電化製品の部品のようだ。家畜も劣悪な環境で飼育されている。そうした肉が美味いわけがない」とイアンは力説する。
イアンは農場経営に乗り出す前はロンドンでその名を知られた美容師だった。デニースはインテリアデザイナーだった。普段自分たちが口にしている肉類のまずさに思い至り、これなら、自分たちで理想とする農場を経営しようということになった。
ドーセット州で営む農場は80エーカー(32ヘクタール)。牛や豚、羊などを飼育している。肥料は家畜の糞に選別した草をまぜ、1年間放置して「醸成」する。「ブタを例に取れば、普通の農場では約4か月の飼育で食肉として供されている。私の農場では2年間ゆっくり時間をかけて飼育する。ストレスをかけないよう広いスペースでのびのびと飼育する」とイアン。
彼はこの独特の農場経営をドイツの著名な思想家、ルドルフ・シュタイナーの教えから学び、実践している。「現代社会の大量生産、便利さ志向は間違っていると確信している。簡素に生きた先人や自然界から学べることは沢山ある。天空から大地からバイタリティーを得て、それをまた自然界に戻す」とも語り、彼はバイタリティーという言葉を何度も強調した。お土産に農場のブタから作ったソーセージと鶏卵2個をいただいた。「これを食べれば、他のソーセージとの味の違いが分かるはず。これでイングリッシュブレックファーストにすれば、一日働くエネルギーが漲るから」と二人に言われた。
お土産をナップザックに入れ、ゲストハウスに歩いて「帰宅」。約1時間10分の歩き。この一帯は何しろ、道が狭く、歩道もない。対向してくる車にはねられないよう気をつけながら歩いた。いや、日本もそうだが、田舎を歩くのは気分が晴れる。天気さえ良ければ。
ドーセットを去る朝、行きつけのパブに出かけ、前日お願いしていた、「持参」のソーセージと鶏卵を使ったイングリッシュブレックファーストを食した。なるほど、ソーセージは風味があり、歯応え十分の味わいだった。
(写真は上から、農場の牛。イアンとデニース。農場がある村には道路から少し横道に入ると、こんな滝も。こういった感じの丘陵がずっと広がっていた。特製イングリッシュブレックファースト)
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