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チャールズ・ディケンズ (Charles Dickens) ①

  • 2012-06-19 (Tue) 05:57
  • 総合

 今年はディケンズ生誕200年の年に当たる。ディケンズは英国民に今なお最も親しまれている作家の一人のようだ。そこかしこで生誕200年を記念したディケンズの展示会が催されている。私もロンドン到着以来、二つの展示会に足を運んだ。ディケンズと言えば、ビクトリア時代を代表する作家。ロンドンを舞台に数々の名作を発表しており、ロンドンに最もゆかりの深い作家とも称される。
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 ディケンズの名作の中から、“Great Expectations”(邦訳『大いなる遺産』)を取り上げてみたい。物語の主人公はピップという名の孤児の少年。ピップ少年が7歳のころから物語は始まる。満足な公教育を受けることなく、ピップはほどなく同居している義兄のジョーが営む鍛冶屋の徒弟となる。ビクトリア時代の英国ではピップのような小学生ぐらいの少年が仕事(奉公)に就くことは珍しくはなかったのだろう。今の「物差し」から見れば、酷な話だが。
 ピップは孤児とはいえ、肉親がいた。かなり年の離れた姉で、ジョーと所帯を持っている。この姉が凄い。彼女の機嫌を損ねると、ピップもジョーも「破壊の嵐」(rampage)を覚悟しなければならなかった。小説を再読していて、私にはこの姉がかつてのプロレスラー「アブドラザブッチャー」のように思えてならなかった。肉親の情愛は皆無に近かったようだ。彼はいつもことあるごとに、いや、ことがなくとも、姉にきつくたしなめられる。第一、ピップは姉を呼ぶ時、「ミセスジョー」(“Mrs. Joe”)と改まった呼びかけを強いられていた。
 ある日、ピップが住む村の近くで囚人を運ぶ老朽船(hulk)から囚人が脱走して大騒ぎとなる。ピップは姉やジョーに「囚人を運ぶ老朽船って何?」と尋ねる。
 It was too much for Mrs. Joe, who immediately rose. “I tell you what, young fellow,” said she, “I didn’t bring you up by hand to badger people’s lives out. It would be blame to me and not praise, if I had. People are put in the Hulks because they murder, and because they rob, and forge, and do all sorts of bad; and they always begin by asking questions. Now, you get along to bed!”(ミセスジョーにとって限界だった。彼女はすぐに立ち上がると、「この坊主、よく聞きな。あたいはお前をなんにでも首を突っ込んで人様を困らせるために手塩にかけて育てたわけじゃないんだ。そうなったら、あたいの面目なんて台無しだ。人殺しや泥棒を働いたり、偽金をこさえたり、ありとあらゆる悪事を働く人間が乗せられるのが囚人船なんだよ。でそういった人間はまず、あれこれ質問をすることから身を持ち崩すんだ。さあ、分かったら、とっとと寝ちまいな!」と罵った)
 好奇心一杯の少年にこのような物言いはないだろう。私も子供の時から、よく人に物を尋ねていた性分だから、ピップに深く同情せざるを得なかった。
 ピップは姉の情愛には恵まれなかったが、ジョーにはとても可愛がられた。ジョーは読み書きはできないが、気のいい男でピップにとっては義兄というより、友達のような近しい間柄になる。ジョーのいない暮らしは少年にとって息が詰まるような生活だったろう。
 (写真は、ロンドンの書店では必ず目にするディケンズの著作)

Comments:2

Taka Asai 2012-06-19 (Tue) 09:32

省一さん、内心ディケンズの登場を期待していたのでうれしくなりました。ずっと昔、Oliver TwistとDavid Copperfieldを少しだけ読んだ記憶があります。写真を見ると、特価とありますが、ペーパーバックがこんなに安いとはディケンズ様も驚いているのでは!

さるく亭の客 (KF) 2012-06-20 (Wed) 00:32

これは版権の切れた文学の名作を安価でペーパーバックにして売っているシリーズですね?ちょうど先日聴いていたラジオの英語番組でディケンズの本を読書会で取り上げて云々という内容があり、ここにもタイムリーにディケンズが登場したのを興味深く思いました。『大いなる遺産』他、映画は観たことがあっても作品そのものを読んだことはありません。映画はもちろん、翻訳でさえオリジナルに手が加わったものですから、原書で読んでみたいと思っています。

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