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ジェフリー・チョーサー (Geoffrey Chaucer) ④

  • 2012-06-16 (Sat) 06:27
  • 総合

 チョーサーは1343年ごろに生まれ、1400年に没したと伝えられている。父親はワイン商だったというから、決して高貴な出ではなかったことになる。だが、裕福さからか英王室にコネがあり、国王エドワード3世に仕えて従軍したり、ロンドンの港で税関の幹部職員となったり、やがては治安判事、ケント州を代表する議会の議員にも任じられるなど、多岐にわたり実り多い仕事に従事している。
 その一方で詩人としても活動。興味深いのは、14世紀のイングランドはフランス語が王室や議会、教育の場での公用語であり、にもかかわらず、チョーサーは英語で作品を書くことを選択したことだ。Middle English と呼ばれる「中英語」で、ライム(rhyme、脚韻)を英語詩に定着させたのもチョーサーと言われる。
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 14世紀にはこの国でフランス語が幅を利かせていたとは! その辺りのことを知りたいと思っていたら、格好の人物に遭遇した。地元のケント大学で中世英文学を教えているピーター・ブラウン教授。昨秋 ”Geoffrey Chaucer” という書をオックスフォード大学出版部局から刊行したばかりだ。
 「私は学生時代に“The Canterbury Tales” に白旗を掲げました。残念ですが」
 「スペリングやすたれた語彙を別にすれば、チョーサーの英語と現代の英語は真っ直ぐにつながっています。彼の英語は事実、現代英語の起源と見なされる英語です」
 「彼の時代はフランス語が主流だったのですね?」
 「西暦1066年のノルマン・コンクェスト以来、イングランドでは支配者階級の言語はフランス語となります。チョーサーも当時の伝統に沿えば、フランス語もしくはラテン語で書いたのでしょうが、イングランドは当時フランスと百年戦争を戦ってもいました。イングランドとしてのアイデンティティーを育むために、あえて庶民の言語である英語を選択したという見方もできるかもしれません」
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 「彼はなぜ、巡礼というテーマを選んだのでしょうか?」
「チョーサーは人生の後半に最後に手がけたのがこの代表作です。彼は商家の生まれですが、幸運にも、宮廷も含め、普通の人が経験できない多彩な経験をしています。そうした諸々の経験を投じるには、多くの人物が登場する巡礼が最適だったのでしょう」
 「チョーサーは英文学の中でどういう位置にいる作家でしょうか?」
 「4月は最も残酷な月であると書いたTSエリオットの『荒地』は、『カンタベリー物語』を念頭に置いています。彼が重要な作家であり続けるのは間違いありません。一つ忘れてならないのは、チョーサーが『カンタベリー物語』を含めた作品を書いた時、印刷技術はまだ誕生していません(注)。彼は自分の作品を人前で読み上げられる舞台芸術として書いているのです。聴衆が耳を傾けて楽しむ作品です。だから、聴く人の印象に、記憶に残るように、脚韻を踏む詩文を作る必然性があったのです。シェイクスピアも同様ですが」
 (写真は上が、チョーサーの人生を当時の時代そして現代とのかかわりの視点でとらえた近著を手にしたブラウン教授。下が、ケント大学の古本市。夏季休暇で学生はまばら)

 注) ブラウン教授の著書"Geoffey Chaucer" によると、以下のように記されている。Chaucer wrote the best part of a century before William Caxton introduced printing to England (in 1476). The composition, production, and dissemination of literary works were accomplished through manuscript: handwritten copies which might then be read aloud.
 英国で初めてウィリアム・カクストンが印刷機を導入して書物を印刷したのは1476年。14世紀に生きたチョーサーはその恩恵は受けていない。書物は原本もコピーも手書きされ、人々はそれが読まれるのに耳を傾けた。さらに次のようにも記されている。Quill pens were fashioned from goose or swan feathers and needed frequent trimming with a pen-knife. Crushed galls, from oak trees, mixed with coppers and gum, provided the black ink.... The writing surface itself was parchment, a specially prepared animal skin, usually sheepskin, treated with lime, scraped smooth, and ruled. Paper was not commonly used until the fifteenth century. 羽ペンはガチョウや白鳥の羽を利用し、インクはナラ材や銅、ゴムの木などをつぶして作り、羊皮紙を使用。紙が一般的に利用されるようになるのは15世紀以降のことだったという。

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