Home > 総合 > ルイス・キャロル (Lewis Carroll) ④

ルイス・キャロル (Lewis Carroll) ④

  • 2012-06-07 (Thu) 01:08
  • 総合

 最終章の「アリスの証言」が印象に残る。姉のひざまくらで目覚めたアリスは自分の身に起きたことを姉に話して聞かせる。お姉さんは「本当に不思議な夢を見たのね」と優しく妹をいたわり、「さあ、お茶の時間よ。急ぎなさい」と言う。
 アリスが去った後もお姉さんは土手に留まり、夕日を見ながら、妹が見た夢の世界にいざなわれる。そして思う。妹は大人になっても今の「子供時代の素朴で愛情に満ちた心」(the simple and loving heart of her childhood)を持ち続け、いつか自分自身の子供たちにこの日自分が見た不思議な夢のお話をして聞かせ、子供たちの目を輝かせることであろうと。
null
 オックスフォードでは今、地元の人々が中心となって、児童文学、物語の素晴らしさを地域や教育の場で根付かせていこうと、“The Story Museum” を設立する動きが進んでいる。「物語博物館」とでも訳したいところだ。寄付金などですでに建物を確保して、2014年の開館を目指す。「オックスフォードは言わば本そして物語の世界の首都。世界の子供たちに物語に触れる楽しさを広めていきたい」と博物館設立に関わっている広報担当のキャス・ナイチンゲールさんは語った。
 英国の著名な児童文学作家のマイケル・ローゼン氏に話を聞く機会に恵まれた。ローゼン氏は「桂冠詩人」(Poet Laureate)に倣い、児童本の優れた作家や画家を顕彰する、この国の「子供たちのためのローリエット」(Children’s Laureate)に5年前に選ばれたこともある多彩な作家だ。
null
 「アリスの物語は単に児童文学と形容していいものか。児童文学の枠に収まらない深い意味合いがあるように思えるのですが?」
 「この作品を読めば人それぞれの感想を抱くと思います。私は次のように思います。キャロル(ドジソン)がこの作品を書いた当時、ダーウィンの『種の起原』の登場で、英国ではビクトリア時代の固定観念が根底から揺るぎつつあったのです。キャロルは論理学者です。彼は聡明な10歳のアリスに託して、子供の世界でもそれを試みたのだと思います」
 「アリスが最後にトランプのハートの女王にはむかう場面がありますね。女王はアリスに腹を立て、臣下のカードに彼女の首をはねよと命じます。アリスは平気で応じます。“Who cares for you? You’re nothing but a pack of cards.”(それが何よ。あなたたちってトランプのカードに過ぎないんじゃない)。この作品が読まれ続けているのは常識や固定観念に縛られない好奇心一杯の少女アリスの魅力があるからだと思います」
 「21世紀の英国には今、アリスのような少女が数多くいるのでしょうか」
 「英国の教育は過去20年ほど、画一的教育に陥っています。固定観念にとらわれない柔軟な発想が育まれる環境ではありません。私には11歳の娘がいますが、先日、彼女が自宅に持ち帰ったテストの内容を見て、私は愕然としました。現在の学校教育では独創性(creativity)にあふれた人間は育ちにくい。あなたのお国ではいかがですか?」
 (写真は上が、2014年に開館を目指す「物語博物館」。さすが、雰囲気のある建物だ。下が、インタビューに答える児童文学作家のローゼン氏)

Comments:3

たかす 2012-06-07 (Thu) 15:28

マイケル・ローゼンさんとの話の報告にはまるで地雷を踏むような緊張感をおぼえました。アリスは自分の時間や体力・健康・技能・知識を売って生活する労働者ではないんですね。「現在の学校教育では独創性にあふれた人間は育ちにくい。」いまの日本の学校は独創性よりも高得点を目指す人間を社会に送り出すことを最優先しているかもしれません。自分の労働力を売って生活の糧をえる人たちがその子らに期待する生活力は成績に左右されます。伝統ではありません。こんな記事をご参考までに。那須くんの報告がさえてきています。
(http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20111227/225721/?mlm)

やすよ 2012-06-07 (Thu) 22:20

省一さん、そちらではお茶の時間も楽しんでいますか~。

先日、しろみからお茶が届きました。ふらんてのお茶でしたよ。素晴らしい味わいです。私は淹れる時のお湯の温度をもう少し研究してみようと思います。標高といい霧立つ時間(温暖差)といい最良の環境(焼畑)で生まれた茶葉ですから。まこてあそこは山の深さから言えば日本のマチュピチュですね。
省一さんの帰りをお茶も待っていますよ(^^)。

文学から市井のレポートに移行する辺りにも興味をそそられます。

お元気で!

省一 2012-06-08 (Fri) 00:35

先生 ローゼン氏は学校教育が子供たちに conformism を強いているとも語っていました。私の辞書にはないことばですが、彼は個人の「個性を伸ばす」教育の大切さを語っていたと理解しています。

やすよさん 米良のお茶は最高です。僕は幼馴染の横瀬鉄ちゃんがくれたお茶を
時々飲んでいます。ロンドンの水にも合う
ようです。ヘビーなイングリッシュブレックファーストに疲れた胃袋には最高の癒しとなっているようです。

このアイテムは閲覧専用です。コメントの投稿、投票はできません。

Home > 総合 > ルイス・キャロル (Lewis Carroll) ④

Search
Feeds

Page Top