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ダニエル・デフォー(Daniel Defoe) ④

  • 2012-05-31 (Thu) 05:22
  • 総合

 ロビンソンはかくして1686年12月19日に無人島を後にする。28年と2か月、19日の歳月を島で過ごしたことになると述べられている。イングランドには翌年の1687年6月11日に到着。35年ぶりの母国への帰還だった。
 主人公はその後、ブラジルに残していたプランテーションの「権利」が認められ、ほどなく、5000ポンドの財産を有する金持ちとなる。当時としては莫大な資産だったのだろう。プランテーション自体、年間1000ポンド以上の収益を見込むことができた。彼はその後、かつて自分を救ってくれたポルトガルの老船長ら恩義のある人々に相応以上のお返しをして、イングランドに落ち着き、結婚して3人の子供をもうける。自分の甥にあたる若者二人の面倒も見て、このうちの一人を立派な船乗りに育て上げる。普通ならこの辺りで物語は大団円となるのであろうが、妻に先立たれたことや、生来の旅好きから、船乗りとなった甥の勧めもあり、1694年、貿易商として今度は英国が権益を持っていた東インド諸島への航海に出る。主人公は1632年の生まれとあるから、62歳となっているはずだ。今ならまだ老け込む年ではないが、当時としては古老の域に差しかかる年齢だったのではないか。
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 この小説はデフォーのあくまで創作であると伝えられている。私はこの小説を読みながら、作家吉村昭の書いた記録小説『漂流』(1976年)も想起していた。こちらは江戸時代、文字通り絶海の無人島に漂着した土佐の一人の船乗りの物語で、不毛の島で12年間、島に飛来するアホウドリを主食に、雨水で生き長らえる壮絶な物語だ。主人公の船乗り、長平の生への執着、故郷の土を再び踏むのだという執念に胸を打たれたが、私の記憶に間違いがなければ、ロビンソンとは異なり、神や神的存在との「問答」はあまりなかったかと思う。日英の「お国柄」が垣間見えると感じた。
 デフォーは序文でこの物語は“the Wisdom of Providence” (神の摂理の導き)への賛美であると述べている。“Robinson Crusoe” が奴隷貿易を背景にした物語であることを忘れてはならないだろうが、この物語が信仰や美徳の大切さを訴えた寓話にとどまらず、今なお世界中の読者を引きつけるのは物語の理屈を超えた面白さゆえだろう。なるほど、「英国最初の小説」とも称されるのは納得できる。
 なお、アメリカの大学教授、デイビッド・ハケット・フィッシャー氏が1989年に刊行した歴史書 “Albion’s Seed” という本によると、イングランドで ”class” という言葉を使用した最初の人物はデフォーであり、彼は1705年にはすでに現代の我々が使っている意味で ”class” という言葉を使用していると指摘している。デフォーは当時すでに、イングランドの社会を「豊かさ」によって七つに区分しているという。それを読むと、現代でも何ら変わりがないことに驚かされる。アメリカでもそうだったが、英国のメディアではこうした貧富の差を憂えるニュースが今も絶えない。
 デフォーの区分は「つづき」で。私は③から⑤いや⑥になりつつあるかもしれない。
 (写真は、連日の爽やかな好天でパブは夕刻ともなると酒を楽しむ長蛇の人々)

 デフォーの区分は次の通り。

 ①“The great, who live profuse”(何の憂いもなく暮らせる高位の人々)
 ②“The rich, who live very plentifully”(豊かに暮らせる金持ちの人々)
 ③“The middle sort, who live well”(それなりに暮らせる中流の人々)
 ④“The working trades, who labour hard, but feel no want”
   (懸命に働かざるを得ないが、不足はない、商売などに従事している人々)
 ⑤“The country people, farmers, &c., who fare indifferently”
   (良くも悪くもない生活をしている田舎や農家の人々)
 ⑥“The poor, that fare hard”(厳しい暮らしをしている貧しい人々)
 ⑦“The miserable, that really pinch and suffer want”
   (生活が困窮し、必需品にも事欠いている悲惨な人々)

Comments:3

Taka Asai 2012-05-31 (Thu) 11:28

省一さん、ロンドン五輪を控えてNHKがBSプレミアムで連日、イギリス特集を組んでいます。先日は映画化されたKazuo IshiguroのThe Remains of the Dayを放映、昨晩はロンドン市内の運河で暮らすnarrow boatの住人や市街地をかっ歩?するキツネまで紹介していました。国民の関心もこれから日増しに高まるでしょうね。ところで、現在のイギリス社会をクラス分けしたら、少し荒っぽいですが①金持ち(デフォーの区分の①②)②中流(同③④)③貧困層(同⑤~)でしょうか。パブの写真、勤め帰りのサラリーマンの憩いの場?その昔、東京・銀座のライオン館で並んだことがありますが、そちらのビール党にはかないません。

Mikiko Bando 2012-06-01 (Fri) 01:39

那須さん
お元気で何よりです。
ロビンソンクルーソーのお話は これも 
子供のころ胸をわくわくさせながら 読んだ記憶があります。
イギリスの階級は はっきりしていますね。
以前Nativeに アガサ クリスティーはどの階級なの?と尋ねた時 中の上
という答えが返って 来ました。
Mikiko B.

那須 2012-06-01 (Fri) 02:15

Asaiさん こちらの人の凄いのはビールをつまみなしで何杯も飲んで、立ちっぱなし、ずっとおしゃべりを続ける・・・この忍耐力と体力ですね。
Bandoさん アガサ・クリスティーは貴族階級の出ではなかったということですかね。分かりませんが。彼女は残念ながら今回の旅では取り上げる予定はありません。ただ、彼女の劇は好きで今回も早速ウエストエンドで観ました。そのうち、印象など書いてみたいと思っています。

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