- 2012-10-07 (Sun) 05:39
- 総合
シェイクスピアは私にとって「無縁」に近い苦手な作家だった。英米文学が専攻みたいなものだった学生時代にもほとんど「素通り」してきた。第一、原書で二三の劇を読んでもほとんど理解できなかった。(当時は)こんなに読みづらいのを無理して読むことはないと思っていた。
今回の旅に際して、「良薬は口に苦し」の心境で、幾つかの劇を改めて読み直した。多分現代英語への翻訳が格段に良くなっているのか、学生時代よりは楽だった。シェイクスピア劇は読むよりも観て楽しむものだと多くの書に書いてある。ロンドン勤務時代いくつかシェイクスピア劇を観たことはあるが、そう大きな喜びまでは感じなかった。
今回はきちんとできれば、複数のシェイクスピア劇を観てみようと思っていた。幸い、今年はロンドン五輪にも合わせ、英国各地でシェイクスピア祭典が催されていた。オックスフォード、ケンブリッジ、ストラットフォード・アポン・エイボン、ロンドンでシェイクスピア劇をたっぷり堪能した。
やはり直近の記憶が新しい観劇の感激が一番か。(駄洒落ではない)。ロンドンのグローブ座(Globe Theatre)で数日前に見た “Twelfth Night”(邦訳『十二夜』)は素晴らしかった。収容キャパの1600人に近いのではないかと思われるほど詰めかけた観客のカーテンコールの拍手喝采がいつまでも終わらない。私はケンブリッジへの帰途の最終電車の時刻が迫っていたため、一刻も早く地下鉄の駅に走り出したかったのだが、「いいや、これで乗り遅れても良しとしよう。それだけの価値あるものを味わわせてもらった」と腹をくくり、最後まで拍手し続けた。(最終電車には間一髪間に合った)
“Twelfth Night” で脚光を浴びる登場人物の一人は堅物の執事、マルヴォーリオ。この役をテレビでも良く見かける人気俳優、スティーヴン・フライが演じていた。見物はマルヴォーリオが彼のことを心よく思っていない周囲の連中の策略で、彼が仕えている伯爵令嬢、オリヴィアの偽の恋文の指示通り、「黄色いストッキング」に「クロスガーター」姿で現れる場面。アポン・エイボンで観た “Twelfth Night” はRSCと呼ばれるRoyal Shakespeare Company の公演で、上記のシーンがとてもエロチックで観客に大受けだった。それに比べ、フライ演じるマルヴォーリオの姿は「抑制」が効いていてむしろこちらに好感を抱いた。
RSCの公演は女性の役者もいたが、グローブ座の公演は男性の役者だけで演じていた。マルヴォーリオが秋波を送るオリヴィアも男性が演じていたが、これも出色の演技だった。男性が演じていることが分かっているからか、「彼女」が片思いの恋の熱情に駆られて取り乱す場面では爆笑の渦だった。
グローブ座の公演は人気があるようで私が電話で確認した時はチケットは完売状態だった。キャンセル待ちにかけてテムズ川南岸のサウスバンクと呼ばれる地区にある劇場に足を運んだ。グローブ座はシェイクスピアが活躍したころの劇場を模して復元され、オープンしたのは1997年。私はロンドン勤務時代に再建中のグローブ座を取材で訪れたことがある。グローブ座の係りの人が親切に応対してくれたことはかすかに記憶に残っているが、どういう記事を東京に送ったのか全然覚えていない。
(写真は上から、観光客で賑わうロンドンのグローブ座。夜間は対岸のセントポール寺院が美しく映える。劇場中央部は屋根がなく、舞台に近い平土間は立ち見となる)
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