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ジョージ・オーウェルとお茶

  • 2012-05-26 (Sat) 01:58
  • 総合

 ロンドンに到着して最初に投宿した民家の屋根裏部屋を「脱出」して、今はそう遠くないきちんとしたホテルに住まっている。一泊45ポンド(約6300円)。ロンドンではとてもリーズナブルな値だと思う。それに朝食付きだ。ネットで例によって「ガチャガチャ」(悪戦苦闘の私なりの擬音語)やっていて見つけたホテルだ。
 Fountain House Hotel という名の実質的にはB&B(ベッド&ブレックファースト)のようなホテルだ。最初の民家から近く移動が楽だったことと安かったことのほかに、ここに決めたのはもう一つ理由があった。このホテルがあの文豪、ジョージ・オーウェルゆかりの深い宿であることを知ったからだ。
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 このホテルはかつて14人の生徒が学ぶ小さな高校だった。オーウェルは1932年から一年余、ここで「住込み」で教壇に立っていたという。食堂がある母屋の建物は当時のままで、食堂の壁に当時の白黒写真が一枚飾られている。数日前、朝食を食べていたら、経営者のマダムが「あなたはオーウェルに関心がおありそうだわね。彼はこんな文章も書いているのよ。読んでみる?」と一枚の紙をくれるではないか。
 “George Orwell’s Perfect Tea” という表題の文章のコピーだ。「ジョージ・オーウェルの完璧のお茶」。何やら面白そうではないかいな。イングランドでお茶を飲むならかくあるべしという11か条をうたった、いわば「オーウェルお茶の11戒」だった。1946年にロンドンの夕刊紙に寄稿した文章らしい。
 最初に、お茶はインドやセイロン(スリランカ)の茶葉に限るとしている。中国の茶葉も悪くない。ミルクなしで飲める経済的なお茶だが、難点は中国茶はいくら飲んでも「知恵も勇気も元気」も出てこないと皮肉っている。ティーポットはお湯で洗って温めるよりも直に温めておくべしとか、お湯が沸いたら、その熱湯を茶葉を入れたティーポットに即座にそそぐべしとか、興味深い「戒め」が列記されている。
 我が意を得たりと思ったのは、最後の11番目に書かれた「戒め」だ。お茶に絶対砂糖を入れてはならない。砂糖を入れることによってお茶のflavour(風味)が損なわれる。それでどうしてあなたはお茶の愛好家と自分を呼ぶことができるのかと作家はたしなめている。私はお茶もコーヒーも砂糖抜きで飲むからこの「戒め」には賛同できる。作家はさらに言う。「お茶に塩やコショウを入れて飲むのはリーズナブル。そもそもお茶はbitter(苦い)なものである」と。これは果たして額面通りに受け取っていいものか、私には分からない。ここ数日、試しに朝食のテーブルでお茶にコショウをかけて飲んでいる。味は?確かにコショウの味がほのかにする味わいだ。
 オーウェルにとっては日本茶(緑茶)も中国茶と同じ範疇なのだろう。深夜に宮崎(米良)の幼馴染が餞別代わりにくれた、彼が作った田舎の緑茶をしみじみ飲んでいる。「知恵」や「勇気」は得られなくとも「癒し」は得られている。作家にぜひ伝えたかった風味だ。
 (写真は、ホテル食堂に飾られている写真。右端の男性がオーウェル)
 “George Orwell’s Perfect Tea”  原文は「つづき」でどうぞ。

George Orwell’s Perfect Tea

The art of making tea was so important to writer George Orwell that in 1946 he wrote about it in London’s Evening Standard.

 First of all, use Indian or Ceylonese tea. China tea has virtues not to be despised – it is economical, and can be drunk without milk – but one does not feel wiser, braver or more optimistic after drinking it.
 Secondly, tea should be made in small quantities in a teapot. Tea from an urn is tasteless. The teapot should be china or earthenware. Silver produces inferior tea.
 Thirdly, the pot should be warmed. This is better done by placing it on the hob than by swilling it out with hot water.
 Fourthly, the tea should be strong. For a pot holding a quart six heaped teaspoons would be about right.
 Fifthly, the tea should be put straight into the pot. No strainers, muslin bags of other devices to imprison it.
 Sixthly, one should take the teapot to the kettle and not the other way about. The water should be boiling at the moment of impact.
 Seventhly, after making the tea, one should stir it, or better, give the pot a good shake.
 Eighthly, one should drink out of a good breakfast cup – the cylindrical type, not the flat type where one’s tea is always half cold.
 Ninthly, one should pour the cream off the milk before using it for tea.
 Tenthly, on should pour tea into the cup first. By putting the tea in first and stirring as one pours, one can exactly regulate the amount of milk.
 Lastly, tea should be drunk without sugar. How can you call yourself a true tea lover if you destroy the flavor by putting sugar in it? It would be equally reasonable to put in pepper or salt. Tea is meant to be bitter. If you sweeten it, you are no longer tasting the tea, you are merely tasting the sugar.

Comments:2

Taka Asai 2012-05-26 (Sat) 10:18

省一さん、お茶の飲み方は人さまざまですが、早速、コショウ入りの朝の紅茶を試されたのですね。ぼくはジョージ・オーエルが寄稿した「11か条」のエッセイの存在は、元デイリーテレグラフ東京特派員のコリン・ジョイス氏の「イギリス社会入門」(NHK出版新書)で初めて知りました。著者はその中で、お茶の文化が根付いた英国社会には“tea and sympathy"という決まり文句があると紹介していましたが、どういうシチュエーションで使われるのでしょうか。

nasu 2012-05-28 (Mon) 00:09

Asaiさん、よくご存知ですね。ご指摘の決まり文句も初めて知りました。ネットで
調べると、1953年の同名の劇に由来
するイディオムで、「困っている人へのいたわりの気持ち」を意味する表現とありますね。ただ、"It's time for action, not just tea and sympathy." というような使い方をするようですから、この心持ちがあれば十分というわけではないようです。

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