- 2012-09-15 (Sat) 04:48
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今回の旅でtubeと呼ばれるロンドンの地下鉄の駅を歩いていて、ベストセラー本のペーパーバック版を告知する大きな宣伝ポスターが目に入った。どうも、ジェイン・オースティンに関係のある作品らしい。気になったので、書店で購入した。P.D.ジェイムズ(P.D. James)女史が書いた “Death Comes to Pemberley”という小説だ。2011年の刊行。読み進めていくうちに、これは“Pride and Prejudice” の「続編」であることが分かった。しかも推理小説仕立てになっている。筆者のジェイムズ女史は1920年8月生まれとあるから、92歳の作家だ。
ジェイムズ女史の物語は1803年10月14日午前11時、エリザベスがダーシーと結婚して嫁いだダービーシャー州のペンバリーから始まる。
例えば次のような文章(注1)で、当時のイングランドの上流社会の様子が紹介してある。フィッツウィリアム大佐が今は子爵の位置にあり、彼が結婚する女性はその結果、子爵夫人となることができるのに比べ、アルベストン氏はたかだか男爵に過ぎない。他の人ならこの事実をとても重要と見なすのであろうが、ジェインには何の意味も持たなかった。
さらに次のような文章(注2)もある。イングランドの平和と秩序は紳士階級の人々が良き地主、主人として、彼らの奉公人に配慮してあげ、貧しき者たちに支援の手を差し伸べてやり、治安判事として常に、それぞれのコミュニティーの平和と秩序を維持するのに全力で取り組むか否かに左右されるのである。もし、フランスの貴族階級の人々がイングランドを手本としていたならば、革命など起きなかったことであろうに。
オースティンが“Pride and Prejudice” を発表した時、イングランドはフランスと百年戦争にあった。彼女の作品にはそうした時代的背景があまり出てこないことが時に批判的に指摘される。“Death Comes to Pemberley” では次のような記述がある。The war with France, declared the previous May, was already producing unrest and poverty; the cost of bread had risen and the harvest was poor. (前年の5月にフランスとの戦争が宣言されたことにより、イングランドの治安と貧困はさらに悪化していた。パンの値段は上がり、穀物の収穫も細っていた)
それにしても、オースティンの原作でもこのジェイムズ女史の続編でも、一人だけ手酷く描かれる人物が一人いる。ジェインやエリザベスの末妹、リディアだ。たいして器量がいいとも思えず、わがままで思慮に欠け、家族や親類、他人にかける迷惑など顧みない、実にあきれ返るような人物に描かれている。現実にこういう女性に巡り合ったら、辟易するだろう。続編では彼女は夫のウィカムとともに最後はアメリカの新大陸に活路を求めてイングランドを後にすることになる。アメリカで彼女の血を引く末裔の娘たちが跋扈していることを想像しただけで気が滅入った。第一、アメリカに対して失礼のような。フィクションとはいえ。大きなお世話か。
(写真は上から、威容を誇るウィンチェスター大聖堂。大聖堂の床に葬られたオースティンのお墓。作家であることを示す文言はなく、後年、彼女が作家として人々に慕われたことを記す真鍮の額や記念のステンドグラスが設けられた。“Death Comes to Pemberley”のペーパーバック発売を告知したポスター)
(注1)
And the fact, which to others would be paramount, that the colonel now was a viscount and that his wife would in time become a countess while Mr Alveston would be only a baron, would weigh nothing with Jane.
(注2)
The peace and security of England depends on gentlemen living in their houses as good landlords and masters, considerate to their servants, charitable to the poor, and ready, as justices of the peace, to take a full part in promoting peace and order in their communities. If the aristocrats of France had lived thus, there would never have been a revolution.
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