- 2012-05-23 (Wed) 04:58
- 総合
共に手頃な値の下宿を探していたホームズとワトソンはベイカー・ストリートで同宿の身となる。ワトソンにとってホームズは興味津々の男に映る。何しろ、ホームズは博学と無知が同居しているような不思議な人物だったからだ。His ignorance was as remarkable as his knowledge. と述べられている。ホームズが太陽系のことを全然知らないことにワトソンは驚愕を隠せない。「この19世紀に地球が太陽の周りを回っていることを知らない人間がいるとは」と。
そのワトソンに向かい、ホームズは平然と語りかける。無駄な情報・知識を自分の脳内に詰め込まないことが大切なのだ。人間の脳の「許容量」には限りがある。無駄を詰め込むと、本当に大切な情報・知識を収容するスペースが減ってしまうという主張だ。
“You see,” he explained, “I consider that a man’s brain originally is like a little empty attic, and you have to stock it with such furniture as you choose. A fool takes in all the lumber of every sort that he comes across, so that the knowledge which might be useful to him gets crowded out, or at best is jumbled up with a lot of other things so that he has a difficulty in laying his hands upon it. … It is a mistake to think that that little room has elastic walls and can distend to any extent. Depend upon it there comes a time when for every addition of knowledge you forget something that you knew before. It is of the highest importance, therefore, not to have useless facts elbowing out the useful ones.” (「分かるかい?」とホームズは説明した。「私は人間の脳はもともと荷物の入っていない小さな屋根裏部屋のようなものだと考えている。要は好きなように家具を入れていけばいいんだよ。愚か者は手に入るあらゆるがらくたを詰め込んでいく。彼にとって有益な知識はどこに入れたか分からないようになってしまう。それを探そうにも役立たない知識であふれ返っており、収拾がつかない。・・・その小さな部屋は弾力性があり、どこまでも膨らむことができると思うのは間違いだ。君が新しい知識を一つ獲得する度にそれまで蓄えていたものを一つ失うようになる時がやって来ることを覚えておくことだ。だから、役に立たない事柄を頭に入れることで有益な知識が失われることのないようにすることが最重要なことなんだよ」)
昨今のテレビではやる「豆知識」や「雑学」を売りにしたクイズ番組、たいして芸のないお笑い芸人が跋扈(ばっこ)するバラエティ情報番組の「氾濫」に多少辟易している私としては、上記の主張には諸手を挙げて賛成したい。
例えば、「夏目漱石」という作家の名前の読み方や、彼の作品に「吾輩は猫である」とか「坊っちゃん」「こころ」という作品群があることを知っているだけでは雑学の域を出ないだろう。そうした作品を読んで味わって初めて意味がある。昨今のクイズ番組は単に雑学的知識を競い、あおっているだけのような気がしてならない。大人はまだいい。多感な子供たちが悪影響を受けなければいいがと思う次第だ。余計なお世話かもしれないが。
(写真は、ロンドンで買った“A Study in Scarlet” 。価格は6.99ポンド[約980円])