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エミリー・ブロンテ(Emily Brontë)④

  • 2012-08-11 (Sat) 06:04
  • 総合

 ブロンテ牧師館博物館の担当者にぜひ話を聞いてみたいことがあった。ブロンテ姉妹のゆかりの品々を収集する仕事の責任者、アン・ディンスデイルさんが応対してくれた。
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 ブロンテ家の父親、パトリック・ブロンテ(注)は1777年にアイルランドの生まれ。ケンブリッジ大学を卒業後、牧師の道を選択し、1820年にハワースにやってくる。この時、ブロンテ家は1男4女の子供たちがいたが、上二人の娘たちは11歳、10歳で相次いで夭折。母親も末妹のアンを生んだ翌1821年に38歳でがんで死亡している。
 「ブロンテ一家を見ていると、父親以外、皆若くして死亡していて驚くのですが」
 「当時はハワースでは珍しいことではありませんでした。1850年に医療衛生の監察官が手がけた調査によると、1840年代のハワースの平均寿命は25歳と報告されています。新生児の41%は6歳に達するまでに死亡していました。ロンドンの悪名高い最悪のスラム街と大差なかったということです。元凶は水です。住民の飲料水が墓場を通って家々に引かれるなどして汚染されていたと言われています」
 「『嵐が丘』の幻想的な世界こそが私にはエミリー・ブロンテが自由に筆を走らせることができた世界に思えるのですが」
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 「その通りです。ブロンテ姉妹は子供のころ、ただ一人の男の子でエミリーの兄、ブランウェルが父親からもらった玩具の兵士のセットに名前を付けて、物語を作っていました。エミリーはゴンドルという架空の島でそれらの兵士が活躍させます。その物語に出てくる人物は『嵐が丘』の登場人物と酷似しています。ブロンテ姉妹にとって想像の空間こそ、彼女たちが意のままに物語を紡ぐことができた世界でした。母親や上の姉さん2人が相次いで病没していることも想像の世界に筆を走らせる一因となったかもしれません。想像の世界なら死者も甦らせることができるのですから」
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 「ブロンテ姉妹が詩作や小説を書く上で家庭環境は恵まれていたみたいですね?」
 「はい。父親も聖職者の道を歩むかたわら、詩や小説を発表しています。正直言って、レベルはそれほど高い作品ではありませんが。父親は女子教育の大切さも認識しており、兄弟のブランウェルがラテン語や古典を学ぶ場に姉妹が同席することを許しています。当時は珍しいことでした。姉妹は奔放な女性遍歴で知られるロマン派の詩人バイロンも愛読していたことが分かっています」
 アンさんはエミリーが書いていた日記の原本を見せてくれた。1837年6月26日の日付のある日記だ。簡単なスケッチが付いており、エミリーがダイニングルームのテーブルに座り書き物をする対面では、妹のアンも書き物をしている様子が描かれている。私にはとても読めない小さい几帳面な文字で当時、エミリーが創作していたゴンドルの物語が書かれている。ブロンテ姉妹が仲良くつましく暮らしたことがその日記からもよくうかがえた。
 (写真は上が、ブロンテ姉妹について説明してくれた博物館のアンさん。下は、ハワース周辺の限定沿線で走っている観光の蒸気機関車。子供のいる家族連れに人気だった)

 (注)父親のパトリック・ブロンテはケンブリッジ大学に進んだ時に名字をそれまでのBrunty から Brontë に変更している。文才があった彼は詩集を出した時に、この名字を名乗ったが、本当は最後のe を「アキュート・アクセント」として知られるé にする予定が、印刷屋にこの文字がなく、便宜的に ëとされたのだという。変更後の名字の方が名家らしく思われると期待したようだ。

Comments:3

tajima 2012-08-11 (Sat) 11:12

ブロンテ姉妹、ますます興味深いです。ただ、ちょっと気になったのは「ブロンテ家は4男1女の」というくだりです。「1男4女の」ではないですか。
それにしても、水のせいでみんな夭折だったとは。もちろん、彼らがそのことに気付くことはなかったのでしょうけど。かなり、不気味な話です。
そうか。イギリスでも蒸気機関車が人気なのですね。

nasu 2012-08-11 (Sat) 15:02

田島さん いやお恥ずかしい! そうです。当然「1男4女」です。なんでこんなミスをするのか不思議でなりません。早速訂正します。ご指摘ありがとうございます。ブロンテ姉妹は好感度アップの旅でした。蒸気機関車は白煙をあげ、汽笛を鳴らしながら走っていました。

tajima 2012-08-11 (Sat) 17:43

あ、やはりそうですよね。
ブロンテ姉妹の話はほんとうにおもしろい。
すごく昔に「嵐が丘」も「ジェーンエア」も映画をみたので、そのときの印象が強く残っています。
小説を読んですぐ映画をみたので、とくに印象的でした。
映画でみた、ヒースの丘の荒涼としたイメージが、今でも目に浮かぶほどです。

那須さんのブログ、とてもたのしみです。

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