- 2012-07-26 (Thu) 23:44
- 総合
フォースターは1879年に中流の家庭に生まれている。建築家の父親は彼の誕生後ほどなく亡くなり、一人っ子の彼は母親や伯母たちの愛情を一身に受けて育つ。4歳時の1883年に母親に連れられてスティーヴニジの一軒家ルークス・ネストに越して来た。1993年に再び転居するまでの10年間をここで暮らす。自然の中で、地元で育った年上のメイドや庭師の男の子などと遊び回り、彼の生涯で最も幸福な時期を過ごしたことは終生の思い出となったようだ。
この一帯が住宅化の危機に立った時、それを阻止する運動の支援を求められた作家は1946年にBBCラジオで次のように訴えている。“I was brought up as a boy…in a district which I still think the loveliest in England.”(私は今でもなおイングランドで最も美しいと思っている地方で少年期を過ごした)。作家の訴えで、スティーヴニジ中で北の端に位置するこの一帯は「フォースター・カントリー」として知られるようになる。
フォースターがそこまで惚れ込んだ一角、特にルークス・ネストをぜひ見てみたいものだと思っていたら、あるつてでその家を訪れる機会を手にした。
現在ルークス・ネストに住んでいるのはアン・ニューマンさん。彼女がネブワースのB&Bまで車で迎えに来てくれた。一緒にいるのは、フォースター・カントリーの保護活動(注)に長く取り組み、フォースターに関する著書もある地元在住の作家、マーガレット・アッシュビーさん。二人の案内でゆかりの場所を案内してもらった。
スティーヴニジの旧市街を通る。スティーヴニジは作品の中では「ヒルトン」と表記されている。「主な建物はフォースターが暮らした当時とほぼ変わっていません。当時は一帯は畑や丘の田園地帯でした。フォースターが暮らした当時、人口は3000人を上回った程度でしょうかしら。今は約8万人が住む町です」とマーガレットさんはため息をつく。
聖ニコラス教会。スティーヴニジで最も古い建物だ。この辺りまで来ると静寂さが漂う。1997年にマーガレットさんたちが建立した石碑がある。“Howards End” の冒頭に記されている有名な表現 “Only connect …” という言葉が刻まれている。何と何をコネクトするのだろうか。人それぞれの「解釈」が可能な文言だ。
ルークス・ネストに到着。正直に書くと、「え? こんなに小さい家?」という印象を抱く。それは多分に先日、エマ・トンプソン主演のあの映画をDVDで観たばかりということもある。こちらで知り合った人が「参考になれば」と貸してくれたのだ。その映像が頭に残っていた。「あの映画はここではなく、コッツウォルズ(Cotswolds)で撮影されました。この家は機材を持ち込んでの撮影には小さ過ぎたのです。それに、周辺の交通事情で騒音が撮影には不向きとされたのです」とマーガレットさんが説明してくれた。なるほど。
アンさんがこの家を購入したのは1993年。転居先を探していて、この家に決めた時はそのゆかりは知らなかったとか。時に作家のファンが訪ねて来ることもあるという。
(写真は上から、聖ニコラス教会。墓地に立つ “Only connect …” の石碑。左がマーガレットさん、右がアンさん。そこから眺めたフォースター・カントリー。現在はアンさんが住むルークス・ネスト)
注1)マーガレットさんは地質学者だったジョン・ヘップワース氏(2012年1月死去)ともにと1988年に「フォスター・カントリー」を保護していくグループ、The Friends of the Forster Country を創設。ホームページのサイトは以下のアドレスで。 http://forstercountry.org.uk/index.php
マーガレットさんは1991年に “Forster Country” という本を著している。フォースターがいかにルークス・ネストに愛着を抱き続けたかが良く理解できる好著だ。その中で
1960年にガーディアン紙がスティーヴニジ周辺に住む地元の人々がこの一帯が名作ゆかりの地であることから、フォースター・カントリーを手つかずのまま残したいと望んでいるという主旨の記事を書いたことから、フォースター・カントリーという呼称が誕生したことを紹介している。
注2)コッツウォルズ(Cotswolds)イングランド中央部に広がる丘陵地帯。グロスターシャーやサマセット州、オックスフォードシャーなど複数の州にまたがる。面積としては東京都程度。ロマンある景観や歴史あるたたずまいから、英国はもとより世界各地から観光客が訪れるイングランド屈指の観光地。バースやチェルトナムなどの市町が含まれる。
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