- 2017-12-08 (Fri) 01:03
- 聖ショートショート
ある日、いきなり放蕩息子は帰ってきた。
父は大喜びである。帰ってきた息子のために盛大な祝宴を開いた。
たまらなかったのは、放蕩息子の兄である。ずつと父親の近くにいて、こつこつと働いてきたにもかかわらず、一度たりとも祝宴なぞ開いてもらったことがなかったからである。彼は父に不満をぶつけた。しかし、父は兄をたしなめて言った。「息子よ、お前はいつもわたしと一緒にいる。わたしのものは全部お前のものだ。だが、お前のあの弟は死んでいたのに生き返った。いなくなっていたのに見つかったのだ。祝宴を開いて楽しみ喜ぶのは当たり前ではないか」と。
父の言葉を聞いていた弟すなわち元放蕩息子は、こう言った。
「お父様、どうか祝宴は取りやめてください。お父様からいただいたお金を使いはたしてしまうほどの放蕩をした私です。とても、お父様から祝っていただく資格はありません。それに、それでは兄が、あまりにも気の毒です。彼はひたすら真面目に、お父様のために働いてきたのですから。私は兄から本当に許してもらえるようになるまで、再び家を出ていかせていただこうと決めました」
この言葉を聞いて、ますます兄は弟が憎くなった。だが、二度と父や弟に対して不満をいうことはなくなった。弟の方は、生涯うしろめたい気持ちを胸にして、父と兄と一緒に暮らすことにした。