Home > 読み違えエラリー・クイーン > パロディ小説(パラフィクション)「『スペイン岬の秘密』の不都合な真実」②

パロディ小説(パラフィクション)「『スペイン岬の秘密』の不都合な真実」②

(エラリー・クイーン『スペイン岬の秘密』の真相部分に触れておりますので、かならず作品を、できることなら越前敏弥先生と国弘喜美さんの新訳でお読みになってから、お読みください。)

      従者テイラーからエラリー・クイーン様へ宛てた手紙(2)
「まずエラリー様の提示された真相には二つの大きな疑問があります。ひとつめは犯人の動機です。この犯人は、思いやりも正義感も強い人物であることは間違いありません。しかし、直接ご本人が不利益を被っているわけでもないのに人を殺めるというのは少し解せません。ふたつめには、殺害後の犯人の逃走法です。犯行が屋敷内の人間によるものだと思わせたかったが故に、犯人が砂浜に足跡を残したくなかったという貴方様の推理は、なかなかの説得力を持つものです。しかし、もし砂浜に足跡が残っていたとすれば、狙うターゲットを間違えたキャプテン・キッドが、再び浜から上陸し今度は間違いなく目的を果たしたという推理も成り立つはずです。むしろ、状況から多くの人はキッド犯人説をとったのではないでしょうか。そうだとすれば、砂浜に足跡が残ることは、さほど問題にならなかったはずです。もっとも、綿密に立てたはずの計画が狂ったことにより、そこまで犯人の考えが及ばなかったと推察すれば、エラリー様の推理も肯けないことはないことは申し添えておきましょう。

その他に私が感じました登場人物たちに対する疑問をあげさせていただきます。まずは娘のローザ・ゴドフリー様のジョン・マーコ様に対する気持ちです。アール・コート様という婚約者がいたにもかかわらず(もっとも、この婚約者へのローザ様の思いにも怪しいものがありましたが)、ローザ様はマーコ様と結婚したいとまでおっしゃっていました。それほどまでにマーコ様が魅力的な男であったのなら、それも致し方のなかったことなのかもしれません。しかし、実はローザ様はステラお母様とマーコ様がよからぬ関係であることを、最初から知っていたと告白されています。いくら魅力的な男だからといって、母親と不純な関係を持った男と添い遂げたいと思ったりするものでしょうか。また、あらためて振り返ってみますれば、マーコ様の行動にも不思議な点があることもわかってきます。

マーコ様の細君の証言からも、氏が浮き名を流し、恐喝によって金銭を得ていたことに間違いはないでしょう。ゴドフリー家に近づいたのも金銭目当てだったことは明白です。しかし、やや不思議なのは、同じ恐喝対象であったローラ・コンスタブル様やセシリア・マン様までゴドフリー邸に呼び寄せる必要が本当にあったのかという点です。ゴドフリー邸に滞在するだけならステラ様からむしり取った金銭で充分満足のいく生活はできたはずです。恐喝する相手を一同に集めた方が集金しやすいという合理的な精神がマーコ様にも備わっていたということでしょうか。はたまた恐喝される者が困惑する姿を目前にして楽しむというサディステックな趣味をマーコ様は持ちあわせておられたのでしょうか(それも充分考えられることなのですが・・・)。とはいうものの、自分が危害を加えた者を集めるということが、一方で自分が報復される危険性も増すことにつながるということに、あまりにも彼は無頓着です。狡猾な人物の割には、無防備に過ぎるのです。例えば、今回はセシリア様の夫君ジョーゼフ様も一緒にいらっしゃっています。万一、過去の不倫が発覚した場合、夫の憤りがマーコ様に向けられた可能性もあったのです。現にキャプテン・キッドはマーコ様の命を狙っていたわけですから。

さて、ここからはエラリー様自身が論証したことに対する私の些細な疑問点を述べさせていただきます。なぜ遺体が素っ裸だったのか。貴方様は考えられうる理由を見事に列挙されました。貴方様は五つの理由を挙げられましたが、その一つ一つが実に論理的に整理されていたものでしたので、いささか失礼とは存じましたが今一度あらためてここに記載させていただこうと思います。
(1) 犯人が服の中にあった物を必要としたため。
(2) 被害者の身元を隠すため。
(3) 犯人の身元を隠すため(被害者の服装の一部または全部が犯人を特定してしまう場合)。
(4) 着衣に血痕がつき、それが何らかの理由で犯人に危険をもたらすため。
以上四つの理由を消去したうえで貴方様のたどり着いた結論は、こうでした。
(5) 犯人が逃亡用の衣類を必要としたため(犯人が何も着ていなかったため)。

Home > 読み違えエラリー・クイーン > パロディ小説(パラフィクション)「『スペイン岬の秘密』の不都合な真実」②

Search
Feeds

Page Top