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R・チャンドラー&R・B・パーカー『プードル・スプリングス物語』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 『プレイバック』の後レイモンド・チャンドラーは『プードル・スプリングス物語』を書こうとしましたが、彼の死によって未完に終わりました。書き残されたのは第四章までで、その続きはロバート・P・パーカーによって完成されました。ちなみにロバート・P・パーカーのデビューは1973年、この『プードル・スプリングス』が出版されたのが1989年。パーカーは円熟期に入ってからチャンドラーの続編に挑戦したと考えられます(チャンドラーの死は1959年)。その後パーカーは『夢を見るかもしれない』という『大いなる眠り』の続編も執筆しています(1991年。私は未読ですが・・・)。
 この作品において探偵フィリップ・マーロウはリンダ・ローリングと結婚しています。孤独と自由を愛するマーロウが夫として家庭におさまっている姿など見たくないチャンドラリアンも多いのではないかと思いますが、この探偵にチャンドラーが伴侶を与えたのは紛れもない事実です。騎士道的な精神をもったマーロウにふさわしい女性は、どんな娘か。俗にいう「お姫様」です。「お姫様」とは、その女性的な魅力を自身の生活のため(生きていくため)発揮する必要性が全くない人種だといえます。したがって姫の魅力には俗にまみれた打算的なところが皆無なのです。ただただ女性を守りたいという純然たる精神には、ただただ愛されたいとう無垢なる精神こそがふさわしいということです。その点では、大富豪の娘リンダは「お姫様」になる資格を有していると考えられます。
 一人の若い人妻をみたとき(鬘が変装になるという設定は少しいただけませんが・・・)、マーロウの騎士道的精神は発揮されます。ただリンダの思いはその精神を独占したいと思うところにあるのです。マーロウの精神は愛されるべき総ての女性へと向けられていきます。そこに齟齬が生じて夫婦の物語が展開していくわけですが・・・。
 『プレイバック』が終わった時点では、チャンドラーは傷つき続けたマーロウに褒章として(あるいは慰めとして)リンダを与えたような印象を受けましたが、この物語のマーロウは生活が安定しても自分が堕落しないことに挑戦していると見受けられました。パーカーが書いたものに比べて、チャンドラーは何と複雑な小説を書いていたことかと思い返されるのですが、無駄が多いとさえ感じさせる展開にこそチャンドラー作品の不思議な魅力があったのです。
 村上春樹の新訳『大いなる眠り』(早川書房)も発売されています。

 

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