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March 2008

アガサ・クリスティーの純文学①

 アガサ・クリスティーは別の作家名義でミステリーではない小説も書いています。その中の『春にして君を離れ』を読んでみました。
 純文学といえども、どこかミステリー仕立てです。汽車の遅延のため砂漠にポツンと残された夫人が、夫や子ども達の過去を疑い始めるという設定なのですが、その疑惑の矛先が最終的に自分自身に向いてくるあたり、推理小説とは違うところです。
 本当の真相は暴かれずに終わります。そもそも本当の真相とは何でしょうか。そこに踏み込んでいけない人間の孤独が見事に描かれています。
 やはりクリスティーは偉大な「作家」でした。春にして君を離れ (クリスティー文庫)

 
 

いよいよ、いよいよ、その時が近づいてまいりました。

いよいよ拙著の校正原稿が届きました。
何しろ自分の著作を出すのは初めての経験で、この原稿を見ただけで感謝感激、満足してしまいそうになりました。書肆侃々房様、田島様ありがとうございます。
著書として世に出させていただく時には、どのような姿に、なることでしょうか。皆様、是非是非、ご期待ください。助っ人学生の力も借りて、気合い入れて、これから校正にかかります。

題名は『ポアロ 小さな灰色の脳細胞』(仮題)。発行予定日は5月の10日です。

ヒロインの視線の先に何が・・・?

 マープルもの『鏡は横にひび割れて』でも、『カリブ海の秘密』と同じく視線が問題になります。彼または彼女は、あのとき何を見たのかが、謎を解く重要なポイントになるのです。クリスティーがうまいのは、その視線劇そのものが、ミス・リードを誘うダミーだったりするところです。
 ドラマ版は、ヘザーの病歴が早めに明かされたり、グラディスの目撃証言がでてきたりで、簡単に真相がわかってしまう可能性があります。一方、またもやスラッグ警視が登場し、クラドック警部の上司になっているところが、面白いです。なお、この作品は『クリスタル殺人事件』という題で、エリザベス・テーラー主演で映画化もされています。
鏡は横にひび割れて (クリスティ文庫)

被害者の視線の先に何が…?

 『復讐の女神』の前編『カリブ海の秘密』では、マープルは珍しくよく動きます。ポアロものの『もの言えぬ証人』に似て、未知の人物の中に入ったマープルがどのように捜査を進めるかを楽しむことができる作品です。マープルも巧みな嘘をつきます。しかし、ポアロと違って、嘘を正当化したりしません。この作品には、自分が嘘をついていたと正直に謝罪する場面もあります。
 ドラマの舞台はカリブ海のバルバドスになっています。もっとも原作が書かれた年には、この国は独立していませんでした。原作では、孤立無援と感じたマープルがラフィール氏(ドラマでは『復讐の女神』のラフィール氏と俳優が違っている)に協力を求めます。
 ドラマでは現地のウェストン警部がヘンリー・クリザリング卿の教え子という設定になっていて、彼がマープルを助けるのです。この俳優、なかなかいい味出しています。このドラマでラフィール氏を演じている役者、どっかで見たことあるんですが…。カリブ海の秘密 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

その名は、ネメシス。

 クリスティーのマープルもの『復讐の女神』は『カリブ海の秘密』の続編です。不思議なことに完全版DVDシリーズでは第一巻に所収されています。
 ラフィールという富豪の遺言でマープルはバス旅行をしますが、このミステリー、何が謎なのかも伏せられている優れものです。その点、ドラマの方は最初の方からラフィールの息子を登場させたりして、ややわかりやすく仕上げています。またドラマにはライオネルというマープルの甥が付き添っています(甥は作家のレイモンドのはずなのですが…)。
 マープルの人間観察眼が最も発揮されている作品です。復讐の女神 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

ある日、書斎に…

 続いてクリスティーのマープルもの『書斎の死体』を読了/観賞いたしました。
 マープルの友人パントリー夫婦の書斎に、ある日突然死体が放置されます。事件は単純なのですが、なかなかトリックは複雑です。マープルは死体の爪の長さから真相を解明するのですが、それが何故わかったのか、またしても「うーん?」と考えさせられてしまいました。
 BBC版のドラマは2時間30分ある大作です。『パディントン発4時50分』にも登場するスラック警部の人物造形が、よくできてます。
 ゲレナダ版では、アデレードの恋人ヒューゴが登場しません。おかしいなと思ってみていると、原作と違う真相が待っていました。少し肩すかしをくらうのですが、この結末なかなか面白いのかもしれません。書斎の死体 (クリスティー文庫)

火のないところにも煙は立つ事件

 次に読了/観賞しましたのはクリスティーのマープルもの『動く指』です。
 クリスティーが自身のベスト10に入れているだけあって、ついついはまりこんでしまう作品です。
 ある村で根拠のない嫌がらせ手紙が行き交います。ついには、その内容を苦にした一人の夫人が自殺してしまいます。友人から頼まれて調査に乗り出すマープルですが…。
 マープル・シリーズは設定そのものが面白いです。ある人物に嫌がらせの手紙が来ていないことによってマープルは真相を見破ります。そこ描写がドラマでは不充分ですが、ドラマもロマンチックな要素をしっかりと描き込んで原作に忠実にできていました。動く指 (クリスティー文庫)ミス・マープル[完全版]VOL.9

童謡殺人の極意

 続きましてクリスティーのミス・マープルもの『ポケットにライ麦を』を読了/観賞いたしました。マープルおばさんの推理はポアロに比べて勘に基づいているところが強いように思います。タキシンという毒がママレードに混入されていたことを確認した時点でマープルは犯人を確信するのですが、なぜ確信できたのか「うーん」と考えさせられてしまいました。マザーグースの童謡にあわせて殺人が行われる物語は他にもありましたが、これは歌詞の利用の仕方においてハッとさせられる作品です。
 アフリカの東か西かという点が謎の解明におおいに役立つのですが、それは原作でのみ味わえます。どのようにして犯人が「黒ツグミ」の悪戯を知ることができたのかが少し不鮮明ですが、ドラマも原作に忠実によくできていました。回想シーンの使い方が上手なので、わかりやすく観賞できます。
 ところで、私「ライ麦」って見たことないのですが…。ポケットにライ麦を (クリスティー文庫)

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