書籍

『毒薬』 劉霞

劉霞から夫・劉暁波への愛の詩集

『詩集 毒薬』
劉霞/著 劉燕子・田島安江/訳・編

四六、並製、176ページ 
定価:本体2,000円+税
ISBN978-4-86385-295-2 C0098

劉霞から劉暁波へ、詩集『牢屋の鼠』への返歌。

一匹の魚、一羽の鳥となった劉暁波への切なくかなわぬ恋文。
劉暁波に与え続けた同志としてのエール。
劉暁波亡きあとも生きるための薬である。

著者プロフィール

劉霞(リュウ・シア/ Liu Xia)
1961年4月1日、北京に生まれる。詩人、画家、写真家。
1980年代半ばに中国の代表的な文芸誌「詩刊」、「人民文学」、「中国」などで詩を発表。1989年、「六・四」天安門事件事件の後、いかなる官製文芸誌にも寄稿を拒否し、詩人は「私人」であるとサボタージュ。詩集に『劉暁波劉霞詩選』(夏菲爾国際出版公司)、『劉霞詩選』(傾向出版社)、日本語では写真集『沈黙の力』(フォイル)がある。
2010年、夫・劉暁波のノーベル平和賞授賞式への代理出席は叶わず、事実上、長期にわたる軟禁生活を強いられている。鬱状態に加えて心疾患も危惧され、国際社会は彼女の自由を訴えている。

訳・編者プロフィール

劉燕子(リユウ・イェンズ/ Liu YanZi)
作家、現代中国文学者。北京に生まれ、湖南省長沙で育つ。大学で教鞭を執りつつ日中バイリンガルで著述・翻訳。日本語の編著訳書に『黄翔の詩と詩想』(思潮社)、『中国低層訪談録-インタビューどん底の世界-』(集広舎)、『殺劫―チベットの文化大革命』( 共訳、集広舎)、『天安門事件から「〇八憲章」へ』(共著、藤原書店)、『「私には敵はいない」の思想』(共著、藤原書店)、『チベットの秘密』(編著訳、集広舎)、『人間の条件1942』(集広舎)、『劉暁波伝』(集広舎)。論文には「社会暴力の動因と大虐殺の実相」(「思想」2016 年1月号―特集・過ぎ去
らぬ文化大革命・50 年後の省察―岩波書店)、「劉暁波・劉霞往復書簡―魂が何でできていようとも、彼と私のは同じ」「三田文學」2017 年秋季号など、中国語の著訳書に『這条河、流過誰的前生与后生?』、『没有墓碑的草原』など多数。

田島 安江(たじま・やすえ)
1945年大分県生まれ。福岡市在住。株式会社書肆侃侃房代表取締役。
既刊詩集『金ピカの鍋で雲を煮る』(1985)
    『水の家』(1992)
    『博多湾に霧の出る日は、』(2002)
    『トカゲの人』(2006)
    『遠いサバンナ』(2013)
共編訳 劉暁波詩集『牢屋の鼠』(2014)
    都鍾煥詩集『満ち潮の時間』(2017)
    劉暁波第二詩集『独り大海原に向かって』(2018)

もくじ

永遠の毒薬 ― 霞へ 劉暁波の「遺稿」

海の物語(一九八二~一九九七)
   海の物語
   飢えた子 
   風景
   叫び     
   一九八九年六月二日― 暁波へ―      
   風― 暁波へ―      
   冬眠     
   一つの言葉     
   私はここに坐っている     
   雨の夜     
   独り守る夜― 暁波へ―  
    
毒薬(一九九七~一九九九)     
   毒薬 
   孤独な風景     
   暗い影― 暁波へ―     
   驚いて目が覚めると― 暁波へ―      
   ある夜     
   カフカ     
   終わりのない夜     
   時代遅れなのに     
   一つの生活     
   結末なんてない     
   あら残念     
   恥辱     
   眠れぬ夜     
   場違い     
   空いている椅子     
   林昭のために     
   沈黙の力     
   人形     
   無言     
   正午     
   ただ目が覚めただけ    
   ザボン
   シャルロッテ・サロモンへ

魂は紙でつくりあげたもの(二〇〇〇~二〇一七)
   魂は紙でつくりあげたもの― 暁波へ―       
   抜け出せない―暁波へ―
   誰も私を見ない     
   ヒステリックな言葉     
   無題― 暁波へ―      
   断片     
   無題― 谷川俊太郎にならい―      

一羽の小鳥の歌声   廖亦武     

沈黙の力    劉燕子      

やっと劉霞詩集が   田島安江

毒薬
 
 
ゴッホの耳を通して
大地がもうすぐ崩壊するという緊迫したニュースが伝わってきた

警戒を忘れないで
空を洗うような夜を
食卓のまん中で咲き誇る花々を
本の中の語順正しいフレーズを
テレビの天気予報を
カフカの目にある狂気を

暖炉の火の中、最後まで残った一筋の炎を
災害が去って、畑に残ったただ一本の高カオ粱リャンを
見守る農夫のように

私はこの世の毒薬
雪に覆われ
大地で腐乱した死体
その死体にうごめくウジ虫を
純白だからとだまされないで

死を覆い隠さないで
模造のパラダイスなんていらない
ニセ天使の熱烈な視線なんて
一茎の枯れて黄ばんだ稲わらにも及びはしない
一本の煙草が燃えつきるときの明かりにだって