- 2010-11-30 (Tue) 07:25
- 総合
ケープタウンのホテルで朝の新聞を読んでいて、コラムニストの顔写真と名前に思わず目がとまった。マックス・デュプレ。おや、これはヨハネスブルクのメイル&ガーディアン紙の編集長をしていたデュプレ氏ではないか。
メイル&ガーディアン紙はアパルトヘイト(人種隔離政策)時代は当時の白人政党・国民党の政策を果敢に批判してきた週刊新聞だった。デュプレ氏が今の政権与党、アフリカ民族会議(ANC)をどう評価しているのかぜひ聞きたいと思った。
あなたはアパルトヘイト撤廃を訴えてきた。念願のANC政権が誕生してどうですか。
「アパルトヘイトがなくなったことは喜ばしいし、今も南アフリカが一つの国として存在していることも素晴らしいと思う。ただ、ANCの現政権には裏切られた思いだ。解放闘争時代の理念は地に落ちたと言わざるを得ない」と顔を曇らせながら、デュプレ氏はまくし立てた。「ANCの指導部は大衆を忘れ去ってしまった。自分たちだけが豊かになることを考えているかのようだ。例えば、BEEと呼ばれる黒人経済強化策。その意図するところはいい。ただ、結果的に誕生したのはANCの一握りの関係者が一挙に億万長者になっただけのことで、タウンシップ(黒人居住区)で暮らす人々は置き去りにされたままだ」
私はケープタウンの快適さとタウンシップの落差を目の当たりにして、誤解を恐れずに言えば、「時限爆弾」のことが頭に浮かびました。
「まさにその通り。この国では毎年、読み書きが満足にできない約75万人の黒人の若者が教育システムからこぼれ落ち、タウンシップに戻っている。民主化後、ANC政権は白人の教師を追い出した。その後、子供たちを誰が教育するのかまで彼らは考えなかった。満足な教育を受けなかった若者は夢も希望もない。彼らの教育、雇用問題に目を向けないと、我々は時限爆弾とともに生きているようなものだ」
暗い話ばかりですね。明るい展望はありませんかか?
「これだけは言っておきたい。私はアフリカーナーの出身だが、南アをこよなく愛する一人だ。希望はある。一つには我々には自由闊達に意見を述べることができる新聞、メディアがあり、批判する人々がいることだ。ANCを新聞で痛烈に批判しているのは黒人の記者たちだ。それと、今、市民社会にこの国を覆うコラプション(汚職・腐敗)に辟易し、行動を起こそうという動きが出始めている。ANC政権はメディアへの統制を強めようとしたが、我々は即座に反対運動を始め、そうした目論見を封じ込んだ」
望みなきにしもあらずですね?
「そう。私はいつも言っているんだ。我々は今出来の悪い政府を抱えているが、国家、国民としては素晴らしいと」
デュプレ氏は来年60歳になる。今は南アの歴史や政治について著作に取り組む一方、市民団体のデモ集会にはプラカードを掲げて参加するなど行動派の知識人だ。
(写真は、ANC政権への失望感と将来への希望を語るデュプレ氏)