- 2010-11-26 (Fri) 05:14
- 総合
ケープ州にステレンボッシュ大学という名門大学がある。アパルトヘイト(人種隔離政策)を推進するアフリカーナーの指導者を輩出するなど保守本流で知られた大学だ。政治学部のアマンダ・ハウス教授に話をうかがった。ハウス教授は2001年、政治学部では女性で初の教授となった人だ。1693年に入植したフランスのユグノー(カルバン派新教徒)を先祖に抱く人で、12歳と16歳の二人の娘が12世代目に当たるという。
2010年の南アをどう見ているか?
「(黒人解放組織の)ANC(アフリカ民族会議)はアパルトヘイトを打倒し、皆が等しく豊かに生きる理念を訴えたが、その理念は挫折したと思います。特にこの5年ほどは大衆迎合の政治がまかり通り、ズマ大統領はまさにこの大衆迎合で政権トップの座を射止めました。貧富の差は今やブラジルを抜いて世界で一番深刻な国になっています。これを憂えない人はいないでしょう」
多数派の黒人社会を含め、ANCに対する不満、失望感が充満しているのに、なぜ、ANCは選挙で勝利するのだろうか?
「結局のところ、野党に政権をまかすような存在が見当たらない、他に選択肢がないからです。前回2009年の総選挙でANCは65%の票を獲得しました。次いで野党の、DA(民主同盟)が17%です。これでは勝負になりません。ANCを支持している労組の大本がANCから離れて労働党のような党でもつくれば話は別ですが、そういう展開は今のところ考えられません」
ハウス教授は特に教育面での質の低下を深刻にとらえていた。「残念ながら、民主化の1994年以来、教育が好転したことを示す材料は見当たりません。この国は今ストライキ天国ですが、教育もそうです。教師が最近では6週間ストライキをしました。その間、子供たちはお構いなしです。教育が荒廃し、子供たちの学力が低下するのは避けられません。政府の真剣な姿勢は見えません」と手厳しくズマANC政権を批判した。
希望があるとしたら、黒人社会を含め、中産階級が育っていることと、成熟したCivil Society(市民団体)がある点をハウス教授は指摘した。振り返ってみれば、アパルトヘイト時代にアフリカーナーの国民党の強権政治に抵抗、最終的に民主化実現に貢献した柱の一つに市民団体の存在があった。当時はUDF(統一民主戦線)と呼ばれていた。
ANC政権が現在成立を図ろうとしている法案の一つに、「情報保護法案」がある。「政権にとって不都合な真実を報道機関が報じるのを封じる狙いがあるのは明らか。市民団体や有識者が強く反対しているので政権の思惑通りには運ばないでしょう」とハウス教授は語った。私も心からそう願う。南アが民主国家として繁栄することはアフリカ全体の浮沈にかかわることだからだ。
(写真は上が、南アの現状について語るハウス教授。12歳の次女は日本の漫画の大ファンだという。下が、爽やかなケープタウンの歩行者通り。本当にこのままここにいたいと思わないでもない)