- 2010-11-22 (Mon) 06:55
- 総合
スブリー・ゴベンダー。初めて会ったのはヨハネスブルクで、彼は当時、インドの通信社やドイツのラジオ局を中心に仕事をしていた。普段の言動から彼が南アのアパルトヘイト(人種隔離政策)に強い憤りを抱いていることは明らかだったが、話し好きの陽気な性格で、記者としての仕事を楽しんでいた。こちらが日本の新聞社の特派員と知ると、好奇心一杯の質問をしてきて、すぐに仲良くなった。
「スブリー、あのころとほとんど変わらないじゃないか。いや、うれしいよ。昔の仲間が今も元気に頑張っているのを見るのは」
「ショウ、久しぶりだな。お前さんこそ元気そうだな。若々しいではないかいな」。こんな感じの言葉を掛け合って再会を喜び合った。
私は彼が自分と同じぐらいの年齢かなと思っていたが、今回20年以上ぶりに再会して、改めて年齢を確認してみると、1946年12月生まれというから、63歳。日本なら第一線から勇退している団塊の世代だ。
「実は昨年の10月にSABCの仕事をやめ、引退したんだ。ただ、それ以外の仕事は引き続きやっているし、日曜紙へのコラムも書いている。今はインド系コミュニティーを対象にラジオ局を立ち上げることを模索している。逆に忙しくなっているぐらいだ」とスブリーは語った。彼の口からSABCというテレビ局が出てきたので意外だった。アパルトヘイト時代は白人政権と表裏一体の関係にあった南ア国営放送だからだ。「もちろん、民主化された94年から働き始めたんだよ。それまではあそこで仕事する意欲が起きるはずがない」と私の疑念を察して付け加えた。
スブリーも白人政権から80年代には自宅軟禁措置に遭ったり、パスポートを取り上げられたりといった弾圧を受けていた。「当時の白人政権は俺の報道が(アパルトヘイト打倒を目指していた)ANC(アフリカ民族会議)を利していると考えたようだ。実際、ANCに共鳴して記者の仕事をしていたけどね。ただ、他の人々が強いられた苦境から比べれば、俺のは比較にならない」
「南アの民主化から16年。ズマ大統領が率いるANC現政権をどう評価している? あまりほめる人には出会わないけど」
「確かに問題は山積している。コラプション(汚職)、犯罪、行政機能の低下・・・。ただ、この国は過去350年の人種差別、圧政からようやく解放されたばかりということを考えてくれ。すぐにはすべての問題は解決しないよ」と一定の理解を示した。しかし、ダーバン周辺ではインド系住民が犯罪の被害者になっていると語り、「インド系住民は自分たちがターゲットになった犯罪の多さにうんざりしている。俺たちは先祖の苦難の末に今の暮らしを作りあげた。南アの民主化にも経済発展にもちゃんと貢献してきた。それが、黒人社会の貧困層のねたみを買っているのは情けないとしか言えない」とも。
(写真は、南アの現状について語るスブリー。奥さんのタイナさんも同席)