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黒人富豪㊤

  • 2010-11-12 (Fri) 05:42
  • 総合

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 ソウェトの大富豪、リチャード・マポーニャさんの邸宅はヨハネスブルク郊外のハイドパークにあった。側壁の向こうに豪邸が垣間見える高級住宅街の通りにタクシーが入ると、検問所があり、警備員が誰何する。マポーニャさんに面会の約束があると告げると、門扉を開けて車を中に入れてくれた。
 彼に会うのはこれが二回目。最初は1987年の年末だった。勤務していた新聞の国際面の正月企画で彼の自宅を訪ねた。23年ぶりの再会だ。失礼ながらまだ生きておられるとは思わなかった。どこかで彼の訃報のニュースを目にしたような記憶があったからだ。
 ヨハネスに到着した数日後、「ソウェタン」という主に黒人読者を対象とした新聞を読んでいて、彼の元気な写真が載った記事が目に入った。取材の意向を伝える際に「あなたはもうこの世にいないと思っていました」と正直に言うと、「わはは」と愉快そうに笑って会うことを快諾してくれた。
 マポーニャさんの人生は経済人としての反アパルトヘイト(人種隔離政策)闘争でもある。北部トランスバール州に生まれた彼はもともと教師になるつもりでヨハネスに出てくるが、ふとした縁から商売の道を選択し、アパルトヘイトの厚い壁に幾度も阻まれながらも、その才覚からやがてソウェトで頭角を現していく。私が最初に取材した時にはスーパーマーケット3軒、ガソリンスタンド兼整備工場2軒、酒店4軒を営み、黒人ビジネスマンのパイオニアとしてその名は南アで広く知られていた。
 それはマポーニャ氏が単に個人的利益をのみ追ったからでなく、黒人商工会議所を設立するなど黒人同胞のためにも尽力していたからだ。また、アパルトヘイトの根幹を成す集団居住法にも敢然と挑戦し、本来なら黒人が住めない白人居住区に豪邸を買って住むなど「行動力」にあふれた人だった。
 その彼が長年の夢として温めてきたのが、世界のどの都市に出しても胸をはれるショッピングモールの建設だ。ソウェトに今それがオープンしていた。「マポーニャモール」。80年代末にソウェトを取材した身から見れば「夢のような施設」に映った。私が足を運んだのは水曜日の午前10時過ぎ、カフェでコーヒーを飲みながら行きかう笑顔の人々を眺め、時の流れを思った。「夕刻になればすごい人出ですよ」と隣に座った人が言う。
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 「一つ屋根の下でブランド物から衣料品、化粧品、食料品、すべての買い物ができます。3年前のオープン以来順調に売り上げを伸ばしています。テナントの数は200以上。モール内で少なくとも1500人が働いているでしょう。地域に貢献できてこんなにうれしいことはありません」とマポーニャさんは語った。彼には息子が3人、娘が5人いる。「子供たちの何人かは私のビジネスに参画しています。これからあそこにはスポーツジムも建設する計画ですし、南ア各地に新たなモールも作っていく予定です。私に定年はありません。神に召される最後の日まで南アのために働き続けるつもりです」
 (写真は上が、ソウェトのマポーニャモール。2階のフロアにはシネマコンプレックスもあった。下がアイスクリームをほおばる姉弟。右にいた父親を写すのを忘れた)

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