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炎の作家

  • 2010-10-10 (Sun) 21:46
  • 総合

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 その男性の声は深みのある響きを伴って携帯電話から聞こえてきた。「私はウォレ・ショインカです。あなたですね。私と話がしたいという方は?」。私は多少上ずった声で答えた。「イエス、サー。あなたと電話とはいえ、こうして話せることをとても光栄に思います」。
 こうして私はナイジェリアが生んだ、アフリカ人で初のノーベル文学賞受賞者(1986年)であるショインカ氏にインタビューする約束を取り付けた。ラゴス滞在が延びたから、ショインカ氏に会えたようなもので、バスでガーナに向かっていたら、せっかくのチャンスを逸することになっていた。ただ、東奔西走で多忙の氏が私と会う時間を作ってくれることはあまり期待していなかったので、ショインカ氏が土曜朝、私の携帯に自ら電話をかけてくれ、その日の午後会えることになろうとは思ってもいなかった。
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 ショインカ氏が多忙なのは本来の著述業、有識者としての仕事のほか、来年初めの大統領選に向け、政党活動にも精力的に取り組んでいるからだ。ビクトリア島にある氏お気に入りのギャラリー兼書店兼喫茶店で会ったショインカ氏はこの点について、「私は昔から政治活動に関わっています。今の政党は2002年に立ち上げたもので、私が政治的にどうこうするというのではなく、若い人たちに引き継ぐ受け皿の政党に育てたい」と説明した。
 76歳の氏が今も政党活動に身を投じているのは、自分たちの世代が健全な国づくりに失敗したという苦い思いがあるからだ。だから、今月独立50周年を迎えたことについても、「若い人たちがそれをお祝いすることは一向に構わない。しかし、私たちの世代は独立当初の夢、アフリカの多くの人が幸福な生活を享受する国を作るというという夢を実現できていない。どうして祝えますか」と語気を強めて切り捨てた。
 「アフリカでは多くの国で未だにエスニック(部族・民族)的確執から国づくりに支障をきたしている。エスニックの多様性を肯定的にとらえ、力にすることはできないものでしょうか」と尋ねると、ショインカ氏は「そういう風に質問していただき、うれしく思います。エスニックの多様性、文化の多様性は何ら悪いことではありません。問題は政治指導者がそうしたエスニックの相違を自分の権力強化に利用してきたことにあります」と語った。
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 アフリカと政治についてよどみなく語るショインカ氏は私には私と大差ない壮健さに見えた。途中で彼が携帯電話をかけざるを得なくなった合間に、「南アフリカにはマンデラ氏がいる。ナイジェリアにはあなたがいる」と間を持たすと、氏は「それはほめすぎ。私などマンデラ氏とは比較にならない」とこのインタビューの中で一番機嫌良さそうに笑った。
 正直に言うと、私は氏の作品で読み終えたものはない。難解だからだ。ナイジェリアは優れた作家の宝庫。少し上の世代に属するチヌア・アチェベ氏の小説なら代表的作品はだいたい読んだ。ただ、このことは氏には言わなかった。
 (写真は上から、インタビューに応じるショインカ氏。氏がお気に入りの喫茶店(ギャラリー兼書店)は素敵な空間だった。購入したばかりの氏の回想録にサインをしてもらう)

Comments:1

安代 2010-10-11 (Mon) 23:52

Wow! スリムになりましたね~

元気でなにより♪

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