- 2010-11-12 (Fri) 14:25
- 総合
ソウェトの大富豪、リチャード・マポーニャさんは妻のマリナさんがネルソン・マンデラ氏のいとこという関係もあり、古くからマンデラ氏とはとても親しい間柄である。マポーニャさんが「マンデラ氏の運転手だった」と解釈されている向きもあるが、実際にはマンデラ氏が1990年2月に釈放され、ケープタウンからヨハネスに戻って来た時、彼は数日間、「光栄この上ない」(マポーニャさん)運転手の役割を買って出ただけに過ぎない。
「マンデラ氏が釈放される1か月ほど前に彼から会いたいという連絡があり、ケープ州の刑務所に面会に行きました。そこで、リチャード、君は車を持っているね、僕は近く釈放されそうなんだ。車をなんとかしてくれないかと相談を受けたんです」
マポーニャ氏は黒人の群衆がソウェトのスタジアムで英雄を迎えた歓喜を「いや、あんな怖い経験は初めてでした。彼らはマンデラ氏の体を触ろうと近づいてきた。私は群衆の圧力でマンデラ氏が殺されるのではないかと心配しました」と振り返る。「マンデラ氏は神からの贈り物だと私は思っていますよ。彼がいたから、南アはアパルトヘイト(人種隔離政策)後の破局、混沌から無事に抜け出すことができた。あんな人はほかにいません」
「マポーニャさん、久しぶりに南アを訪問して残念なのは、与党のアフリカ民族会議(ANC)の政権上層部に関する汚職、腐敗の疑惑が連日、新聞などで報じられていることです。あなたは裸一貫でアパルトヘイト政権と対峙して冨を築いた。だから、黒人大衆から尊敬もされている。彼らとは違う。寂しいことだと思いませんか」
「それはおっしゃる通りです。彼らはかつて見たこともない金を見て目がくらんでいるのでしょう。そのうちに克服される問題ですよ」。この一点に関しては疑問があるが、あえて異議を唱えなかった。
「マポーニャさん、ネットの情報だとあなたは1926年12月生まれです。来月には84歳になりますね」と確認すると、彼は「それなんですがね、これもアパルトヘイト時代の名残なんですよ」と苦笑しながら説明してくれた。「私は本当は1920年生まれなんです。ヨハネスに田舎から出て来た時、警察に捕まり、農場に売られることになったんです。その時、警察官が私の誕生証明書に記されている生年月日の1920年の最後の0に余計な線を入れて6にしたんです。他の書類は全部捨てられました」
「そうなんですか。少しでも若い男の方が高く売れるということだったんですかね」
「それで今、弁護士に依頼して、当時の公文書の類を探し出し、私の誕生日を正す作業を進めているところです。お金がだいぶかかるみたいですが、仕方がない。だから私は来月24日の誕生日が来れば90歳です。この話、信じられますか?」
「はあ、それだと92歳のマンデラさんとたいして違わないですね」
「そういうことです。わはは」。マポーニャさんはまた愉快そうに笑った。
(写真は上が、穏やかに語るマポーニャさん。間もなく90歳とは思えない偉丈夫な人だ。下が、プールとテニスコートのあるこの家には5年ほど住んでいるという)